第28話 変わらず

かえで

 彼女は振り向く。クールな微笑みを浮かべて。

「何で生徒会室?」

「誰も来ない場所だからさ」

 ムードもへったくれもないなぁ。

「送辞、良かったぞ」

「答辞、良かったです」

 変な会話に2人して笑う。

柊壱しゅういち

「何?」

「これで、また会えなくなるな」

「そうだね」

 分かりきっている。

 これが1年という、埋められない差だ。

「必ず連絡はする」

「うん」

「電話はたまに」

「うん」

 電話はさすがに俺からしよう。

「あとは長期休みの時は必ず会いに行く」

「うん」

 激変していたら嫌だなぁ・・・。

「あのさ」

 あれ?なんだか不機嫌な気が。

「うん、しか言っとらんが?」

「えっ?」

「なんか言う事ないのか!?」

 怒られた?なんで!?

「バカ・・・」

 困ったなぁ・・・参った参った。

 苦笑しつつ、とりあえず一言。

「ごめんごめん」

 言葉足らずなの知ってるだろ。

 もう少し努力しよう。

「まったく・・・」

 喧嘩別れは嫌なんで早く仲直りせんと。

「あっ・・・あれを見ろ」

「ん?」

 楓の隣に立って彼女の指差す方向を辿り、窓の外を見ると。


「虹、か」


 くっきりと綺麗な虹がそこにあった。

「良いことありそうだな」

「きっとあるよ」

 久しぶりに綺麗な虹を見た気がした。

「楓?」

「何だね?」

 彼女の方を向くと、彼女も俺の方を向く。


「卒業、おめでとう」


 ちゃんと言わないとな。

 あとはもう一言。


「これからも、よろしく」


 楓は満面の笑顔で「あったり前だ!」と元気いっぱいに言って、勢い良く抱きついてきた。


「柊壱、大好き」

「楓、大好きだよ」


 ずっと忘れずにいたあの子は、こうしてここにいる。

 あの時と変わらず、俺の心の中にいた。

 感謝しかない。

 あの日が最初で最後と思って、一生会えないと思っていたけど、今こうして目の前にいる。

 これからもよろしく、かえちゃん。



 月日が流れてー・・・


 鐘が鳴り響く。

 教会の扉が開くと、新郎新婦が姿を現した。

 祝福に包まれる。

「おめでとうはやし

「ありがとう、椿つばき

 なんだか頼もしくなったな、コイツ。

「次はお前な」

「はいはい」

 よそ様の事は気にすんなし。

りん、とても綺麗だ」

「ありがとう、楓ちゃん」

 三葉みつば先輩、本当に綺麗だ。

「早く楓ちゃんのウェディングドレス姿が見たいなぁ♪」

「あはは、その時は必ず呼ぶさ」

「約束だよ!」

「あぁ、約束!」

 女子2人、今でも仲が良くてよろしい。

「それではブーケトスに移ります」

 司会の人がその言葉を言った瞬間に、女性の方々が前の方に並び出した。

「楓は行かないの?」

「ふん、興味ないな」

 体はウズウズしてますが?

 恥ずかしいんだろう。可愛いな、俺の彼女。

「それでは新婦様、ブーケを投げて下さい」

「はーい、いっきまーす!」

 三葉先輩は俺達に背中を向けて。

「そーれ!」

 思い切り後ろにブーケを投げた。

 そのブーケに突撃するように、我先にと言わんばかりに女性の方々はブーケに向かったが、そのブーケは風に乗ってしまい更に後ろに飛んでいき。

「おい楓、上!」

「えっ?」

 見上げた楓。

 ブーケは彼女の所に舞い降り、情景反射で手を伸ばすとキャッチしたのだった。

「楓ちゃん、すごーい!やったー!」

「と、と、とととっ!」

 慌てる楓。

「良いんじゃない?」

「そう、なの?」

「うん」

 俺の言葉に納得したのか落ち着いて、そのブーケを大事に抱えた。

 取れなかった方々はガッカリの様子だった。


 結婚・・・か。

 互いに通じたタイミングでと、考えてはいる。

 だから今はこのまま。

 十分幸せだから、焦る事はない。


 林と三葉先輩の結婚式は無事に終わった。

 幸せを分けてもらった気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る