第25話 本心を隠す

 生徒会室に戻って来た冴木さえきとは、あの事を忘れるくらいに、普通に会話した。

 そして今、俺は1人でよろめきながら歩いていた。

 身体中の力が抜けてしまい、こうして動いているのがやっとだ。

 真っ直ぐ前を向いてはいるが、何だか視界がぼやける。

「はぁ・・・」

 溜め息を吐き、ゆっくり進もうとすると、優しくポンポンと背中を叩かれた。

 誰だろうと振り向くと。

「元気ないですね?」

 水上みなかみがそこにいた。いつものあの笑顔で。

 でも、どこか心配しているような顔をしていた。


籠宮こみや風見かざみには悪かったな・・・」

「2人共心配していたから私の所に来たわけで・・・追い付ける距離で良かったです」

「水上も悪かった」

「いえいえ」

 水上と2人で下校する。

「それで、何があったんですか?」

 この子になら話しても良いのかもしれない。

 俺は簡潔に、落ち着いて、何があったのかを話した。


「そうでしたか・・・」

 水上はじっと聞いてくれた。

 驚いた表情をした時もあったが、真剣に聞いてくれた事に感謝する。

「先輩、推測なんですがね?」

 優しく言い聞かすように水上は言う。

「まず、門倉かどくら先輩は、誰よりも先に伝えたかったから、あのタイミングだったのかも」

 黙って俺は聞く。

「いつでも会える時間がないなら、今しかないってね。その分、不安なんじゃないかなぁ・・・あの先輩、強気な雰囲気にどこかこう、折れたら壊れてしまうくらい繊細で」

 あー、なんか分かる。

「女の子の女の子、ですね」

 そう、可愛い所あんだよな。

「一方の冴木さえき先輩は、負けず嫌いな所が見え見え。普段は落ち着いていて物事をそつなくこなすけど、いざって時に強さが現れるって感じで」

 そうそう。

「でも、焦ると不安で不安で、耐えられない。だから、勢いで伝えたんじゃないですかね?」

 なるほど・・・。

「今頃、困らせちゃったどうしようって気持ちだと思うので、ちゃんとフォローしてあげないといけませんよ」

「分かった、ちゃんとする」

 そういう事なら、そうだな。

「先輩、モテ期ですね」

 ニヤッと笑う水上。

「違う」

 否定する俺。

「はぁー!なら、私も言っちゃおーっと」

 すると、水上はズイッと思い切り背伸びして近付いた顔に、ドキッとする。


「先輩、好きです」


 えっ・・・


「よし、スカッとしたー♪」

 能天気な声で水上は俺から離れた。

 体を伸ばして、うーんっと唸る水上。

「驚きました?返事はいりませんから安心して下さい」

 いたずらっ子のような顔で、舌をペロッと出す水上。

「先輩は、今、誰も傷付かない事を考えているなら、それは間違いです」

「でも」


「傷付かない恋って、あるんですか?」


 果て、あるのだろうか・・・。

「私を含めて全員振っても良いんですよ!」

「それはどういう・・・」

「それは、先輩の心の内が知っています!」

 ハキハキ言う水上。

「それが答えに繋がりますから、ね?」

 水上は微笑み、俺をじっと見る。


「女の子って、凄いんですから」


 この言葉に、背中を押された気がした。



 これで良かったのかな?

 全員振っちゃえなんて、バカだなぁ私。

 ガッカリしている私、水上 陽葵ひなた

 少しは先輩の心が軽くなったなら良いけど、でも・・・。

 女の子って凄い、その分、とても弱い。

 返事はいらない、なんて。

 本当はハッキリして欲しい。


 どうなるかな・・・この想い・・・。

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