第21話 納得

「生徒会に入るなんて夢にも思わず、当選していざ初顔合わせの日に、どうせ堅物な人、変な人、上から目線の人しかいないだろうって思ってた」

 球技大会から数日後の放課後。

 珍しくはやしと2人だけだったので、三葉みつば先輩との関係を聞いていた。

「それで?」

 引き継ぎ準備をしながら続きを促す。

「うん、偏見だった僕の方が悪かったと思った」

「確かにな」

「君はともかく、まさかの女子2人」

「待て林、選挙の時点で先輩達の事をチラッとは見てるだろう?」

「演説会までは記憶あるんだけどさ、自分の事でいっぱいで周りなんか見てなくて、初顔合わせまで全く知らなかった」

 これがマイペース林君。

「初顔合わせの日、1番に目が合ったのが、三葉先輩だった」

 フィーリング的な?

「いやー、この僕がさ、一目惚れするなんてね」

「なるほどなぁ」

 一目惚れなら、しゃーないか。

「ねぇ?今からカミングアウトしても良い?」

「大丈夫、なんとなく検討はつく」

 多分だが、当たっているはず。

「僕ね、胸が大きい女子が好きなんだ」

 はぁ・・・やっぱり。

「それで、あまりにも可愛いから、この子しかいない!って思って」

「それでアタックしたか?」

「猛アタックだよ、大変だった」

 疲れきった顔をする林。

 普通になびかなそうな人だもんな。

「連絡先交換して、ちょくちょく連絡するようになるまでは早かったし、手応えあるなって自信がついて、一緒に3回出掛けて、3回目で告白した」

 順は踏むんだな、偉い偉い。

「失敗した」

 うん、妥当だな。

「それから何度も告白したさ。でもなかなか・・・」

 ガッカリしながら意気消沈。

 多分、あの時と同じ気持ちになってこうなってるのかもしれない。

「でもある日、たまたま放課後の生徒会室で2人きりになってね」

 ん?そんな事あったか?

「作業が終わって帰る雰囲気になって、僕がお先に失礼しようとドアノブに手をかけた時に」



「待って林君」

 三葉先輩が珍しく僕、林 じゅんを呼び止めた。

「どうかしましたか?」

 三葉先輩は俯いている。

 何か嫌な思いをしてしまったのか?

 だとしたら謝らなければ。

「すみません先輩、何か嫌な思いをしたなら謝りまっ」

「違うの違うの!」

 三葉先輩は顔を上げて慌て始める。

 あれ?顔が赤いような・・・。

「あのね、林君・・・」

「はい」

 いつもふわふわな雰囲気はどこへやら。

 掴み所のない、隙のない先輩はどこへやら。


「ありがとう」


「えっ」


 脈絡が全くない、感謝の言葉を言われた。

「えっと、どういう?」

 質問をしてみた。

「はっ!だよね、ごめんごめん!」

 また慌てる先輩。

 深呼吸をしてから、ゆっくりと先輩はこう言った。


「ずっとフッてごめんなさいって事と、一途に想ってくれてありがとうって事を、まとめて“ありがとう”って言ったの」


 僕の心臓がドクンと跳ねた。


「私、恋愛なんて全く興味がなくてね」


 僕は先輩の話に耳を傾ける。


「だから、私に告白してくる男子の事を全部断って」


 そうだったんだ。


「なんとなく下心が見えて気持ち悪いなって思ってね」


 先輩はシュンとした顔になる。


「でも、林君は違ってた」


 微笑み僕に近づき、1人分の隙間の距離感で対面となる。


「最初は他の男子と同じ下心が見えていたけど、ずっと一途に想ってくれている事に純粋な事に気付いて、本当に私の事を好きなんだなって分かって」

「はい」

「エスコートは上手だし、気遣いなんて凄いし、優しいし頼りになるし」

 僕の良い所だろう、どんどん言っていく先輩。

「・・・だから、付き合おう?」

 えっ、嘘・・・


「好きになっちゃったから」


 笑顔で先輩は、みっちゃんは、僕に告白をしてくれた。



「・・・という訳です」

「さようですか、納得です」

 なんか、良いなって羨ましく思えてきた。

「大事にしろよ」

「分かってる」

 俺は一体・・・。

 置いてけぼりを感じてしまう。

「お前もしっかりしろよ」

 林に強く肩を叩かれた。

「決めなきゃいけない時が、直ぐそこまで来てると思うよ」

「林・・・」

「相談はのるから」

「ありがとな」

「親友だろう?」

「腐れ縁じゃね?」

 2人して廊下まで響くくらいに、思い切り笑った。

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