第18話 楽しさの後は

 後夜祭、楽しそうだな・・・。

 前夜祭は文化祭に向けての助走のようなもの。

 各クラスの出し物をステージで発表し、先生方の審査で文化祭でも披露となる。

 今年も文化祭で披露するクラスは、3年生のクラスが例年同様独占した。

 そして、文化祭では一般の人も中に入り賑わいに溢れた。

 俺のクラスは、教室では書道の展示会となり、1時間事に交代しながら受付をこなし、外では焼きそばの出店をやった。

 その中、俺は生徒会の仕事で体育館に箱詰め状態。

 動画撮影担当という、なんともめんどくさい事を神経質になりながらやった。

 はやしは音響担当、門倉かどくら先輩と三葉みつば先輩は仲良く司会。

 そして今、中庭で後夜祭を楽しむ生徒達の様子を生徒会室で眺めていた。

 動画編集をしながら・・・。

「何1つ、思い出がない、疲れた」

 ぼやきがぽろり。それでもパソコンを操作する。

 あと少しで終わる、頑張れ俺。



「はぁ・・・終わった・・・」

 パソコンの電源を切り、画面を閉じた瞬間。

 ドッと疲れが襲ってきた。

 帰ったらゆっくり風呂に入ろう。

 窓から中庭を見ると、後夜祭も終盤。

 皆、キャンプファイヤーの周りで踊っている。

「あー、あれか」

 人が入れ替わり立ち替わりながら、いろんな人と踊っていくあれ。

 タイトルが浮かばない、忘れた。

 踊る気力のない俺は鞄を持って生徒会室を出た。


 こっそり帰ろう。


 別に大丈夫だろうから、外は暗いし。

 昇降口で外履きの靴に履き替え校舎を出た。

 来年は少し楽だろうから、なんて考えつつ、のんびり歩く。

 校門を出て直ぐの事。


「いた」

「あっ・・・」


 冴木さえきが待ち構えていたようだ。

「一緒に、どう?」

 優しく微笑む冴木。

「ありがとう」

 俺は冴木と一緒に帰る事にした。



「なんで、あんなとこにいたんだ?」

「待ってたの、見当たらなかったから」

 まあ、そうだよな。

「下手に校内を走り回るより、待つ方が良いかと思ってね」

「寒かったろ?」

「大丈夫」

 冴木は制服のポケットからある物を取り出した。

 それを俺に見せ付けるように目の前に差し出す。

「カイロは万能だよ?」

「なるほどな」

 寒くないなら良いけど。

「お待たせしました」

 店員さんが注文した料理を持ってきてくれた。

 そう、ここはファミレス。

 寒かったし、お腹空いたし、という事で寄った。

 冴木は親に連絡してあるとの事、心配ない。

 冴木の前にはデミグラスソースがかかったオムライスとサラダにスープ。

 俺の前にはカルボナーラとサラダとスープ。

「デザートは食後でよろしいですか?」

「「はい」」

「かしこまりました」

 店員さんは厨房へ戻って行った。

「さて食べますか」

「だな」

 2人して、手を合わせて。

「「いただきます」」

 やっと夕食だ。

 フォークにカルボナーラをくるくる巻き、それを持ち上げてパクリ。

 口の中と空腹に、じんわりと満たされる。

 美味い・・・幸せだ。

「本当にお腹空いてたんだね?幸せそうな顔してる」

 ニッコリと冴木が言った。

「マジでヤバかったから」

「ふふふ」

 冴木はオムライスをスプーンで一口掬い食べた。

「デミグラスが美味しいから、オムライスも美味しい!」

「冴木も幸せな顔してるぞ」

「ふふ」

 俺と冴木は美味しい料理に舌鼓。

 大満足でした。



「ありがとう」

「いえいえ」

 冴木を家まで送り届けた。

「帰ったら連絡ちょうだい」

「良いけど、何でだ?」

 するとムスッとした顔になる冴木。

「分かってないなぁ・・・」

「えっ?」

 ん?何がだ?えっ?えっ?

「とにかく連絡してよね!」

 そう言って冴木はプリプリしながら怒って家の中に入ったのだった。


 取り残された俺。

 うーん、分からん。

 とりあえず、言う通りにしよう。

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