第17話 緊張で止まらない

 今、体育館に在校生と先生方はいる。

 少し感覚を空けながら、教室から持ってきた椅子に在校生は座り、出入口のすぐ横に先生方はパイプ椅子に座って見守っている。


「ただいまより、生徒会選挙立合演説会を開催致します」


 司会のはやしが進行していく。


 2学期が始まって、あれよあれよと、ここまで来てしまった。

 やるべき事はやった。

 選挙活動期間中は過酷だった。

 朝と昼と放課後、フル活用でビラ配りに呼び掛け、街頭演説もどき、放送室での立候補者との討論会。

 目まぐるしかった、疲れた、あの1週間だった。

 今年度は何故か前倒しでの選挙となっていた。

 夏休み前にそうなったのだそうだ。

 だが、新体制は決まって来年の1月。

 とりあえず、大人の事情に振り回された訳だ。

 選挙準備に抜かりなく、俺の後ろにいる現会長様が全力で俺と冴木さえきの事も支援して下さった。

 有難いかぎりである。


 ステージ上から見渡すと、在校生は本当に多く居るんだなと実感した。

 この在校生が来年度の全てを、誰に任せるか演説を聞いて決めて投票する。

 緊張が更に増していく。


 ステージ上には会長立候補の俺ともう1人、副会長候補の冴木ともう1人、会計候補と書記候補は1年からそれぞれ1人ずつ。

 推薦人の人数も合わせると、ここには12人がいた。


 会計候補の1年から順番に演説をしていく。

 持ち時間は1人5分以内。

 それに収まるように原稿を作成し、演説練習を重ねてきている。

 開催して40分が経過。

 今は会長立候補の1人が演説をしている。

 この人が終われば俺だ。

 さて、どうしたものか。汗が止まらない。

 まだ残暑が少なからずあるとはいえ、俺だけ暑いのかなんなのか。

「おい」

 後ろから先輩が話しかけてきた。

「汗凄いぞ?どうした?」

「大丈夫っす」

 きっと自然と緊張しているのだろう。

「倒れるなよ、ほい」

「あっ」

 先輩はハンカチタオルを渡してきた。

「あざっす」

 俺は額の汗、首筋にまで流れた汗を拭いた。

 綺麗に洗濯して返そう。申し訳ないです。


「ありがとうございました」


 立候補と推薦人の演説が終わった。


「よし、行こう」

「はい」

「大丈夫、われがいる」

 その言葉に俺はゆっくり頷いた。



 放課後の生徒会室。

「はぁー、ヤバかったです」

 と伸びをしながら言う林。

「疲れたぁ、張り裂けるかと思ったぁ・・・」

 とお茶の準備をしながら言う三葉みつば先輩。

「皆の者、ご苦労であった!」

 と腰に手を当て豪快に笑っている門倉かどくら先輩だけは元気百倍。

 そして俺はというと、机に突っ伏している。

「頑張ったなー!結果発表まで休め休め」

 門倉先輩は俺の背後に回り、肩を叩き始めた。

「気持ち良いです」

「だろう?だろう?」

 この人、何故にこにこしてんの?

「はーい、今日はみんな頑張ったから甘めの紅茶だよぉ♪」

 みんなに紅茶を配る三葉先輩。

 甘めの紅茶・・・ナイスです、マジ天使。

「はぁ・・・糖分が染みるっす」

 至福に浸る林。

「ん~、美味しいねぇ♪」

 味わうように飲む三葉先輩。

 なんだか目がトロンとしているような。

「うむ、疲れた時に良いな」

 甘味が苦手な門倉先輩でも飲めるとは。

「・・・ありがとうございます」

 身体中に染み渡り、俺は眠くなるのであった。


 夕方5時過ぎ。


『先程投票の集計が終わりましたので、ただいまより選挙結果をお伝えします。同時に掲示板に結果の掲示を致します。繰り返します』


「きたきたきたー!」

 大興奮で待ってましたと言わんばかりに、門倉先輩は生徒会室を出て行った。

「掲示板の方が早いんでしたっけ?」

 すると三葉先輩はニコッと微笑み。

「そうだよぉ、だからかえでちゃん超特急だったの♪」

「じゃあ俺も行きます」

「行ってらっしゃい」

 門倉先輩の後を追った。


 全学年の掲示板がある1階。

 そこには人集りがあった。

 もう貼られているようだ。

 喧騒の中、人集りを掻き分けるように前に行くと先輩もいた。

 結果を見てみると。

「・・・」

 目を思いっきり見開く。

「おっ!いつの間に!」

 先輩は大はしゃぎしている。

 俺の肩をバンバン叩きながら一言。


「おめでとう、新会長!」


 本当に・・・なっちまった・・・とさ。


「おめでとう、私も無事になれたよ」

「冴木・・・」


 心強い、冴木も副会長に当選したのだった。


「お二方ー、おめでとでーす!」

 俺と冴木の間にガバッと入って来たのは。

「ひ、陽葵ひなたちゃん!?」

水上みなかみ!?」

「えへへ♪」

 満面の笑顔で俺と冴木を祝福する水上。


 来年度に向けて、これから少しずつ引き継ぎが始まるのであった。


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