第15話 夏休みの締めくくり

 夏祭り当日。

 屋台のあるエリアは大盛況で、人がごった返していた。

 一応、甚平を着てきたがどうだろう。

 冴木さえきからオーダーはなく、また浴衣着てくとも聞いていないし、リクエストすらしていない。

 これで私服だったら、浮かれてると思われてしまい恥ずかしい思いになる。

 以心伝心、していると良いのだが・・・。

「あっ!お待たせ」

 振り返ると・・・冴木、さん・・・

「浴衣似合うかな?どうかな?」

 紺を基調とし、朝顔の花が綺麗に咲き誇っていて映えていて、帯の黄色がグッと浴衣の良さを引き出していた。

 髪型は纏めた髪をバレッタで留めていて、うなじが綺麗に現れていた。

 普段見えない所が見えてるとドキッとするもんだな。

「うん、似合ってる」

「ありがとう」

 微笑む冴木。

 あー、甚平着て正解。

 浴衣着てきた冴木に感謝。



 屋台巡りをして少し疲れた為、今は近くのベンチに座っている。

 屋台で買ったものは、焼きそば、お好み焼き、焼き鳥、袋の中に入ったわたあめ。

 射的で取った熊のぬいぐるみ、くじ引きで引いた三等の地元マスコットのフィギュア。

「たくさん買って、景品もゲットしたな」

「だね、もう持てないから、早くあったかいうちに食べ物は食べよう」

「だな」

 冴木はお好み焼きと焼き鳥、俺は焼きそばを食した。

 冴木は美味しそうに食べていて可愛いなと思った。

 よく食べる女の子は良い。

 お腹を満たした所で。

「さて、そろそろかな?」

「そうだな、行こう」

 空のパックと割り箸を袋に入れて口を縛り、燃えるゴミのゴミ箱に捨てた。

「手持ちが減って楽だ」

「本当にそうだ」

 俺は景品の入った袋を、冴木はわたあめの入った袋を持って移動した。



「たくさんいるねー」

「確かに」

 河川敷に行くと人でごった返していた。

「空いてる場所は・・・あっ!」

 冴木は走って行く。俺は慌てて後を追った。

 すると急に冴木は立ち止まる。

「おっと」

 危うくぶつかる所だった。危ない。

 なんだか様子がおかしい。

「冴木?」

「・・・こ、こんばんは」

 冴木の視線を辿ると、見知った女子がいた。

「あー!こんばんは、先輩方!」

「なんで水上みなかみ?」

 そこには水上がレジャーシートの上で寛いでいたのだ。

「いやー、偶然ですねー♪」

 淡い水色を基調とし、水風船が今にも出てきそうな、躍動感のある絵が水上に似合っていた。

 にこにこと、口の端にソースがついているのを知ってか知らずか。

「実は今の今まで友達といたんですが、突然好きな人と遭遇し、その子はその彼と行動する事になり、私1人でして」

 てへっ♪なんて顔をする水上。

「先輩方、1人だと寂しいしつまんないんで、一緒にどうですか?」

 人懐っこい水上、嘘も悪意もない、本当に素直に誘っている。

 冴木はというと、少し熟考して。

「じゃあ、一緒に花火を見ましょう?」

 マジか?!煩いぞコイツ。

「わぁーい!ありがとうございまーす!」

 万歳して喜びを表現した水上だった。


 花火大会が始まるまで、女子2人はガールズトークを展開。

 取り残された俺は落ち着かない思いとなり、「飲み物買ってくる」と言って、水上はスポーツドリンク、冴木は緑茶を頼まれて、今は自販機の前に来た所。


 カチャリン、ピッ、ガコン 


 スポーツドリンク、緑茶、俺はコーヒーのブラックを買った。

 さて戻るか。

 取っといていた袋に飲み物を入れて、歩き出したら。


「「あっ・・・」」


 目の前に・・・


門倉かどくら、先輩・・・」


 浴衣の基調の青紫が夜を彷彿として、赤の金魚が綺麗に描かれていて、ミステリアスな雰囲気が先輩にぴったりだ。

 長い髪を纏めて、向かって右に流していた。

「友達と来ていて、飲み物をと・・・」

「俺と同じ」

「そうなんだ」

 緊張しているな、言葉遣いが丁寧だから。

「俺、戻るんで」

「そう、じゃあまた」

「はい、また」

 俺は先輩の横を通り過ぎる。

 石鹸の香りが鼻孔をくすぐった。

 その時、突然だった。


「待って」

「えっ?」


 呼び止められた。


「先輩?」

 俺は振り返る。


「一発・・・」

「・・・?」

「花火、一発だけ・・・一緒に・・・」


 心臓が跳ね、鼓動が早くなる。 


「お願い・・・」


 先輩の声は震えていた。

 俯いていて表情は分からない。


「・・・はい」

「えっ?」

「花火一発分、良いですよ」


 一発ぐらい、どうってことない。


「ありがとう」


 ようやく顔を上げた先輩、可愛い笑顔だった。



「そろそろ上がりますね」

「うん、楽しみだ」

 だいぶ緊張が解けたのか、いつもの口調になっていて安心。

「あっ、きた!」


 ひゅるるぅ~


 どーん


 ぱらぱらぱら・・・


「上がっちゃった・・・」

「はい」

「花火一発だけでも一緒に見れて良かった」

「はい」


 哀愁漂う先輩、なんだかな・・・。

 でも、冴木と水上が待ってるし。


「それじゃ、待たせているから行くとしよう」

「俺もっす」

「本当にありがとう」

「こちらこそ」


 そう言って俺は左に、先輩は右に、歩き出した。


 実は、自然と先輩が俺の手を握っていたのは、内緒である。

 ドキドキ、した。



「遅くなった、混んでた」

「えー、ほんとかなー、ねぇ冴木先輩?」

「うん、追及しなきゃだね、陽葵ひなたちゃん」

 俺がいない間に仲良くなっとる。

「マジだって、ほれ水上のスポドリ」

「わおっ!冷た気持ちー!」

「そして冴木の緑茶」

「ありがとう」

 靴を脱いでレジャーシートに上がり、冴木の隣に腰をおろした。

「さ、3人で見ましょー!」

「あいよ」

「ふふ」

 ゆっくり寛ぎながら3人で打ち上げ花火を見た。

 花火が夏の終わりを告げているように見えて、少し悲しくなった。



「では、学校でー!」

 水上は迎えの車が近くのスーパーにいるとの事で河川敷で解散。

 畳んだレジャーシートを抱えて走って行った。

「元気だね、陽葵ちゃん」

「あれが水上なんで」

「可愛い後輩ちゃん、羨ましい」

「いやいや、疲れるぞ?」

「えー、そうかなー」

 俺と冴木はゆっくり帰路を歩く。

「今日はありがとね」

「うん、俺もありがとう」

 誘いがなければ家にいてごろごろしていた。

「楽しかったなー」

「だな」

 久しぶりの楽しい祭り。

 また来年も、なんて欲張りか。

「終わんないで欲しいな・・・夏・・・」

 どうした、冴木。

「らしくないな」

「私だって寂しくなるよ?」

「悪い悪い」

 そりゃそうだ、失礼しました。

「ねえ?」

「ん?」

 すると立ち止まった冴木は俺と向き合う。

 目をじっと見詰められて。


「また来年・・・来年は2、ね?」


 おぅ・・・だよな・・・


「うん、約束な」

「うん、約束」


 右手の小指を差し出した冴木。

 自然と俺は右手の小指で冴木の小指に絡めた。


「「指きりげんまん、嘘ついたら、針千本のーます、指きった」」


 お互いに、笑いが込み上げてきて、笑った。


「それじゃあ、学校でね」

「うん、学校で」


 冴木を家まで送り届けて、その時に景品の入った袋を渡してから、俺は振り返らずスタスタと帰り道を歩き出した。


 なんだか、少し、不安が浮かぶ。

 2学期・・・大変かな?

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