第15話 夏休みの締めくくり
夏祭り当日。
屋台のあるエリアは大盛況で、人がごった返していた。
一応、甚平を着てきたがどうだろう。
これで私服だったら、浮かれてると思われてしまい恥ずかしい思いになる。
以心伝心、していると良いのだが・・・。
「あっ!お待たせ」
振り返ると・・・冴木、さん・・・
「浴衣似合うかな?どうかな?」
紺を基調とし、朝顔の花が綺麗に咲き誇っていて映えていて、帯の黄色がグッと浴衣の良さを引き出していた。
髪型は纏めた髪をバレッタで留めていて、うなじが綺麗に現れていた。
普段見えない所が見えてるとドキッとするもんだな。
「うん、似合ってる」
「ありがとう」
微笑む冴木。
あー、甚平着て正解。
浴衣着てきた冴木に感謝。
※
屋台巡りをして少し疲れた為、今は近くのベンチに座っている。
屋台で買ったものは、焼きそば、お好み焼き、焼き鳥、袋の中に入ったわたあめ。
射的で取った熊のぬいぐるみ、くじ引きで引いた三等の地元マスコットのフィギュア。
「たくさん買って、景品もゲットしたな」
「だね、もう持てないから、早くあったかいうちに食べ物は食べよう」
「だな」
冴木はお好み焼きと焼き鳥、俺は焼きそばを食した。
冴木は美味しそうに食べていて可愛いなと思った。
よく食べる女の子は良い。
お腹を満たした所で。
「さて、そろそろかな?」
「そうだな、行こう」
空のパックと割り箸を袋に入れて口を縛り、燃えるゴミのゴミ箱に捨てた。
「手持ちが減って楽だ」
「本当にそうだ」
俺は景品の入った袋を、冴木はわたあめの入った袋を持って移動した。
※
「たくさんいるねー」
「確かに」
河川敷に行くと人でごった返していた。
「空いてる場所は・・・あっ!」
冴木は走って行く。俺は慌てて後を追った。
すると急に冴木は立ち止まる。
「おっと」
危うくぶつかる所だった。危ない。
なんだか様子がおかしい。
「冴木?」
「・・・こ、こんばんは」
冴木の視線を辿ると、見知った女子がいた。
「あー!こんばんは、先輩方!」
「なんで
そこには水上がレジャーシートの上で寛いでいたのだ。
「いやー、偶然ですねー♪」
淡い水色を基調とし、水風船が今にも出てきそうな、躍動感のある絵が水上に似合っていた。
にこにこと、口の端にソースがついているのを知ってか知らずか。
「実は今の今まで友達といたんですが、突然好きな人と遭遇し、その子はその彼と行動する事になり、私1人でして」
てへっ♪なんて顔をする水上。
「先輩方、1人だと寂しいしつまんないんで、一緒にどうですか?」
人懐っこい水上、嘘も悪意もない、本当に素直に誘っている。
冴木はというと、少し熟考して。
「じゃあ、一緒に花火を見ましょう?」
マジか?!煩いぞコイツ。
「わぁーい!ありがとうございまーす!」
万歳して喜びを表現した水上だった。
花火大会が始まるまで、女子2人はガールズトークを展開。
取り残された俺は落ち着かない思いとなり、「飲み物買ってくる」と言って、水上はスポーツドリンク、冴木は緑茶を頼まれて、今は自販機の前に来た所。
カチャリン、ピッ、ガコン
スポーツドリンク、緑茶、俺はコーヒーのブラックを買った。
さて戻るか。
取っといていた袋に飲み物を入れて、歩き出したら。
「「あっ・・・」」
目の前に・・・
「
浴衣の基調の青紫が夜を彷彿として、赤の金魚が綺麗に描かれていて、ミステリアスな雰囲気が先輩にぴったりだ。
長い髪を纏めて、向かって右に流していた。
「友達と来ていて、飲み物をと・・・」
「俺と同じ」
「そうなんだ」
緊張しているな、言葉遣いが丁寧だから。
「俺、戻るんで」
「そう、じゃあまた」
「はい、また」
俺は先輩の横を通り過ぎる。
石鹸の香りが鼻孔をくすぐった。
その時、突然だった。
「待って」
「えっ?」
呼び止められた。
「先輩?」
俺は振り返る。
「一発・・・」
「・・・?」
「花火、一発だけ・・・一緒に・・・」
心臓が跳ね、鼓動が早くなる。
「お願い・・・」
先輩の声は震えていた。
俯いていて表情は分からない。
「・・・はい」
「えっ?」
「花火一発分、良いですよ」
一発ぐらい、どうってことない。
「ありがとう」
ようやく顔を上げた先輩、可愛い笑顔だった。
※
「そろそろ上がりますね」
「うん、楽しみだ」
だいぶ緊張が解けたのか、いつもの口調になっていて安心。
「あっ、きた!」
ひゅるるぅ~
どーん
ぱらぱらぱら・・・
「上がっちゃった・・・」
「はい」
「花火一発だけでも一緒に見れて良かった」
「はい」
哀愁漂う先輩、なんだかな・・・。
でも、冴木と水上が待ってるし。
「それじゃ、待たせているから行くとしよう」
「俺もっす」
「本当にありがとう」
「こちらこそ」
そう言って俺は左に、先輩は右に、歩き出した。
実は、自然と先輩が俺の手を握っていたのは、内緒である。
ドキドキ、した。
※
「遅くなった、混んでた」
「えー、ほんとかなー、ねぇ冴木先輩?」
「うん、追及しなきゃだね、
俺がいない間に仲良くなっとる。
「マジだって、ほれ水上のスポドリ」
「わおっ!冷た気持ちー!」
「そして冴木の緑茶」
「ありがとう」
靴を脱いでレジャーシートに上がり、冴木の隣に腰をおろした。
「さ、3人で見ましょー!」
「あいよ」
「ふふ」
ゆっくり寛ぎながら3人で打ち上げ花火を見た。
花火が夏の終わりを告げているように見えて、少し悲しくなった。
※
「では、学校でー!」
水上は迎えの車が近くのスーパーにいるとの事で河川敷で解散。
畳んだレジャーシートを抱えて走って行った。
「元気だね、陽葵ちゃん」
「あれが水上なんで」
「可愛い後輩ちゃん、羨ましい」
「いやいや、疲れるぞ?」
「えー、そうかなー」
俺と冴木はゆっくり帰路を歩く。
「今日はありがとね」
「うん、俺もありがとう」
誘いがなければ家にいてごろごろしていた。
「楽しかったなー」
「だな」
久しぶりの楽しい祭り。
また来年も、なんて欲張りか。
「終わんないで欲しいな・・・夏・・・」
どうした、冴木。
「らしくないな」
「私だって寂しくなるよ?」
「悪い悪い」
そりゃそうだ、失礼しました。
「ねえ?」
「ん?」
すると立ち止まった冴木は俺と向き合う。
目をじっと見詰められて。
「また来年・・・来年は2人きり、ね?」
おぅ・・・だよな・・・
「うん、約束な」
「うん、約束」
右手の小指を差し出した冴木。
自然と俺は右手の小指で冴木の小指に絡めた。
「「指きりげんまん、嘘ついたら、針千本のーます、指きった」」
お互いに、笑いが込み上げてきて、笑った。
「それじゃあ、学校でね」
「うん、学校で」
冴木を家まで送り届けて、その時に景品の入った袋を渡してから、俺は振り返らずスタスタと帰り道を歩き出した。
なんだか、少し、不安が浮かぶ。
2学期・・・大変かな?
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