第13話 冴木桜との会話

 冴木さえきと一緒に図書館にいた。

 個室スペースで2人きり。

 同じタイミングで互いに原稿用紙から目を離して顔を上げた。

 目が合った、てか当たり前か。

 すると冴木は優しく微笑んでまた原稿用紙に集中する。

 机を挟んで対面で座っているが、ちょっとドキドキする。

 こんな可愛い女の子と2人きり・・・落ち着かない。

 今すぐにでも脱走したい気持ちである。

 冴木の私服は良いとこのお嬢さんのようだ。

 マキシ丈の黄色を基調としたチェックスカートに、上はワイシャツ、その上に夏用の淡いピンクのカーディガンを着ていた。

「読書感想文、まとまりそう?」

「ぼちぼちかな」

「私も同じ」

 何故、図書館か。

 それは宿題の読書感想文を書いて、互いに添削し合う事になったからだ。

 1人で書くとだいたい誤字脱字に、意味不明な文や文脈になるからだ。

 だから、冴木が「一緒にどう?」と言ってくれた事がきっかけで、今に至る。

 2時間経過して、互いに感想文が出来上がった。

「それじゃあ、赤ペン持って添削しよ」

「おう」

 原稿を交換して添削が始まった。



 冴木が読んだ本はファンタジー小説。

 旅に出た女の子の主人公が、出会いと別れの中に、1人の女の子から女性へと成長する物語。

 その感想文は落ち着いていて、冴木自身が経験してきた事を語りつつ、共感部分も語られていて。

 俺のお子ちゃま文章とは違って、大人びていた。

 俺の感想文なんか抽象的過ぎるから恥ずかしい。

「うん、なかなか抽象的だね。でも、頭の中でイメージ出来ちゃう不思議」

「俺の感想文はお子ちゃまさ。冴木の方が凄いよ。読みやすいし、作品の良さが伝わる」

「ありがとう」

 互いに褒め合う。ちょっとくすぐったい。

「ねえ、感想文が少し良くなるアドバイスなんだけど?」

「是非教えて下さい先生」

「先生ってヤダなぁ」

 冴木は苦笑いしつつも、的確なアドバイスを頂戴する事が出来、俺の感想文はお子ちゃまから高校生に進化したのだった。



 解散する頃には、外は夕方になっていた。

「それじゃあ、またね」

「ああ、本当に良いのか?送ってくぞ?」

「大丈夫、すぐだから」

 なんだかなーと思いつつ、ふと1つ思い出す。

「冴木」

「何?」

「祭りの日、よろしくな」

「こちらこそ、おもてなし楽しみ」

「期待しないでくれ」

「期待する」

 なんだろう、ちょっとだけフワッとした心になったような・・・。


「私と君・・・2、楽しむんだよ?」


 トクン・・・


「それだけで、期待しちゃうな」


 冴木・・・


「当日、楽しもうね」

 いつもの笑顔が眩しい。

「じゃ、またね」

 冴木は振り返る事なく、ぱたぱたと足早に帰って行った。

 残された俺はボーッと立ち尽くして、気付いたら薄暗くなっていた。



 彼がどんな顔をしていたのかは分からない。

 振り返りたかったけど、そうしなかった。


 私の事だけを、冴木 さくらを、考えて欲しかったから。


 彼には、門倉かどくら先輩と後輩の女の子、素敵な2人がいるから・・・。


 、そう思うのはおかしいかな?

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