第13話 冴木桜との会話
個室スペースで2人きり。
同じタイミングで互いに原稿用紙から目を離して顔を上げた。
目が合った、てか当たり前か。
すると冴木は優しく微笑んでまた原稿用紙に集中する。
机を挟んで対面で座っているが、ちょっとドキドキする。
こんな可愛い女の子と2人きり・・・落ち着かない。
今すぐにでも脱走したい気持ちである。
冴木の私服は良いとこのお嬢さんのようだ。
マキシ丈の黄色を基調としたチェックスカートに、上はワイシャツ、その上に夏用の淡いピンクのカーディガンを着ていた。
「読書感想文、まとまりそう?」
「ぼちぼちかな」
「私も同じ」
何故、図書館か。
それは宿題の読書感想文を書いて、互いに添削し合う事になったからだ。
1人で書くとだいたい誤字脱字に、意味不明な文や文脈になるからだ。
だから、冴木が「一緒にどう?」と言ってくれた事がきっかけで、今に至る。
2時間経過して、互いに感想文が出来上がった。
「それじゃあ、赤ペン持って添削しよ」
「おう」
原稿を交換して添削が始まった。
※
冴木が読んだ本はファンタジー小説。
旅に出た女の子の主人公が、出会いと別れの中に、1人の女の子から女性へと成長する物語。
その感想文は落ち着いていて、冴木自身が経験してきた事を語りつつ、共感部分も語られていて。
俺のお子ちゃま文章とは違って、大人びていた。
俺の感想文なんか抽象的過ぎるから恥ずかしい。
「うん、なかなか抽象的だね。でも、頭の中でイメージ出来ちゃう不思議」
「俺の感想文はお子ちゃまさ。冴木の方が凄いよ。読みやすいし、作品の良さが伝わる」
「ありがとう」
互いに褒め合う。ちょっとくすぐったい。
「ねえ、感想文が少し良くなるアドバイスなんだけど?」
「是非教えて下さい先生」
「先生ってヤダなぁ」
冴木は苦笑いしつつも、的確なアドバイスを頂戴する事が出来、俺の感想文はお子ちゃまから高校生に進化したのだった。
※
解散する頃には、外は夕方になっていた。
「それじゃあ、またね」
「ああ、本当に良いのか?送ってくぞ?」
「大丈夫、すぐだから」
なんだかなーと思いつつ、ふと1つ思い出す。
「冴木」
「何?」
「祭りの日、よろしくな」
「こちらこそ、おもてなし楽しみ」
「期待しないでくれ」
「期待する」
なんだろう、ちょっとだけフワッとした心になったような・・・。
「私と君・・・2人で、楽しむんだよ?」
トクン・・・
「それだけで、期待しちゃうな」
冴木・・・
「当日、楽しもうね」
いつもの笑顔が眩しい。
「じゃ、またね」
冴木は振り返る事なく、ぱたぱたと足早に帰って行った。
残された俺はボーッと立ち尽くして、気付いたら薄暗くなっていた。
※
彼がどんな顔をしていたのかは分からない。
振り返りたかったけど、そうしなかった。
私の事だけを、冴木
彼には、
負けたくない、そう思うのはおかしいかな?
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