第12話 水上陽葵との会話
夏休みに入って1週間は経過した。
残り2週間、まだまだ長い。
ピロリン♪
スマホが鳴ったので確認する。
『せんぱーい!』
※
「先輩、本当に来てくれましたね?」
「暇だったから」
「えー!そんな理由!?」
水上と2人でファミレスに来ていた。
テーブルを挟んで対面式で座っている。
服装は半袖の淡い黄色のパーカーに、ホットパンツというラフな格好をしている。
「お待たせしました~」
注文していた品が来た。
「ごゆっくりどうぞ~」
ウェイトレスはテーブルに品と伝票を置いて、厨房に去って行った。
「食べましょう食べましょう!」
水上が注文したのはオムライス。しかも大盛。
「食えるのか?」
「ペロリと食べちゃえますよー♪」
小柄な君なので想像つかん。
「ハヤシライスかー美味しそう!」
俺はハヤシライスにした。
情けない事にご飯は少なめ。
「なんでかなー?他の人が注文した料理の方が美味しそうに見えるのか」
「魅力的に見えるもんな」
「はい!だから、一口ください!」
「はいはい先にとれ」
「遠慮なく頂きまーす!」
本当に一口分、スプーンですくわれ真っ直ぐ口に運んだ水上。
「うんまーい♪」
顔を綻ばせ、幸せそうだ。
「先輩もどぞどぞ」
「いいよ、水上の分がなくなるだろ」
「一口でなくなりませんって」
うーん・・・。
「先輩、遠慮せず」
結局、頂く事に。端っこをスプーンですくって食べた。
「美味いな」
「オムライスは偉大です!」
なんだか、カップルかよ、と思ってしまった。
※
「あー美味しかったー!」
「パフェまで食ったのには驚いた」
「デザートは別腹っすよー!」
なんという。
「先輩、この後どうします?」
「どうって考えてないなー」
「ですよねー!」
なんで聞いた。
「とりあえず、そこのベンチに座りますか!」
ちょうど商店街を歩いていた俺達は、近くのベンチに座った。
商店街の賑わいはなく、シャッター街と化したこの通り。
誰も通らない時間帯だからか、今は静かである。
「先輩は高校卒業したら、進学就職どっちですか?」
「いきなり何?」
「参考までに聞いてみたくて」
唐突すぎる質問に違和感を覚えつつ。
「進学、かもな」
俺は答えた。
水上は神妙な顔で聞いていた。
寂しさと切なさと遠くを意識しているような。
「どちらにせよ、地元を離れます?」
「それは分からん」
「ですよね」
語尾が伸びない。
少しだけ調子が狂う。
水上は溜め息を吐いて。
「先輩が、地元からいなくなるなら・・・」
「えっ」
すると水上はハッと我に返り、顔を赤くして。
「なんでもないです!」
大きな声で言った。
俺は何度か瞬きをして。
「変だぞ?大丈夫か?」
わざと気遣った。
きっと無意識で言った事なんだろう。
なら忘れよう。
「大丈夫大丈夫!すみません」
てへっ、と陽気な顔になり、いつもの水上に戻った。
「さて、帰りますか!」
「だな」
ベンチから立ち、帰路の道を辿った。
※
とんでもないことを言った私、水上
我に返った時には顔は熱くなっていた。
赤くなっていたに違いない、恥ずかしい。
中学から知っている先輩。
会えなくなる事を考えたら、寂しくなって切なくなって・・・。
気付いてはいない、私の気持ちを。
まだ気付いて欲しくない、でも気付いて欲しいような・・・
もどかしいな・・・
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