第12話 水上陽葵との会話

 夏休みに入って1週間は経過した。

 残り2週間、まだまだ長い。


 ピロリン♪


 スマホが鳴ったので確認する。


『せんぱーい!』


 水上みなかみ、でした。



「先輩、本当に来てくれましたね?」

「暇だったから」

「えー!そんな理由!?」

 水上と2人でファミレスに来ていた。

 テーブルを挟んで対面式で座っている。

 服装は半袖の淡い黄色のパーカーに、ホットパンツというラフな格好をしている。

「お待たせしました~」

 注文していた品が来た。

「ごゆっくりどうぞ~」

 ウェイトレスはテーブルに品と伝票を置いて、厨房に去って行った。

「食べましょう食べましょう!」

 水上が注文したのはオムライス。しかも大盛。

「食えるのか?」

「ペロリと食べちゃえますよー♪」

 小柄な君なので想像つかん。

「ハヤシライスかー美味しそう!」

 俺はハヤシライスにした。

 情けない事にご飯は少なめ。

「なんでかなー?他の人が注文した料理の方が美味しそうに見えるのか」

「魅力的に見えるもんな」

「はい!だから、一口ください!」

「はいはい先にとれ」

「遠慮なく頂きまーす!」

 本当に一口分、スプーンですくわれ真っ直ぐ口に運んだ水上。

「うんまーい♪」

 顔を綻ばせ、幸せそうだ。

「先輩もどぞどぞ」

「いいよ、水上の分がなくなるだろ」

「一口でなくなりませんって」

 うーん・・・。

「先輩、遠慮せず」

 結局、頂く事に。端っこをスプーンですくって食べた。

「美味いな」

「オムライスは偉大です!」

 なんだか、カップルかよ、と思ってしまった。



「あー美味しかったー!」

「パフェまで食ったのには驚いた」

「デザートは別腹っすよー!」

 なんという。

「先輩、この後どうします?」

「どうって考えてないなー」

「ですよねー!」

 なんで聞いた。

「とりあえず、そこのベンチに座りますか!」

 ちょうど商店街を歩いていた俺達は、近くのベンチに座った。

 商店街の賑わいはなく、シャッター街と化したこの通り。

 誰も通らない時間帯だからか、今は静かである。

「先輩は高校卒業したら、進学就職どっちですか?」

「いきなり何?」

「参考までに聞いてみたくて」

 唐突すぎる質問に違和感を覚えつつ。

「進学、かもな」

 俺は答えた。

 水上は神妙な顔で聞いていた。

 寂しさと切なさと遠くを意識しているような。

「どちらにせよ、地元を離れます?」

「それは分からん」

「ですよね」

 語尾が伸びない。

 少しだけ調子が狂う。

 水上は溜め息を吐いて。


「先輩が、地元からいなくなるなら・・・」


「えっ」


 すると水上はハッと我に返り、顔を赤くして。


「なんでもないです!」


 大きな声で言った。


 俺は何度か瞬きをして。

「変だぞ?大丈夫か?」

 わざと気遣った。

 きっと無意識で言った事なんだろう。

 なら忘れよう。

「大丈夫大丈夫!すみません」

 てへっ、と陽気な顔になり、いつもの水上に戻った。

「さて、帰りますか!」

「だな」

 ベンチから立ち、帰路の道を辿った。



 とんでもないことを言った私、水上 陽葵ひなた

 我に返った時には顔は熱くなっていた。

 赤くなっていたに違いない、恥ずかしい。


 中学から知っている先輩。

 会えなくなる事を考えたら、寂しくなって切なくなって・・・。


 気付いてはいない、私の気持ちを。


 まだ気付いて欲しくない、でも気付いて欲しいような・・・


 もどかしいな・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る