第8話 たっぷり盛り盛り

「へいおまちぃ!」

「「ありがとうございます」」

 屋台のラーメン屋にいる。

 辺りは真っ暗、会社員の人達が駅から出てきて足早に去って行く。

 そんな喧騒の中で、俺と先輩は美味しそうなラーメンに釘付けで、周りが気にならない。

 俺が頼んだのは塩豚骨バターという、カロリー高めで、野菜は盛り盛りにしてもらった。

 一方の先輩が頼んだのはトマトチーズ味のラーメンで、そのチーズの量は半端なかった。バーナーで軽く炙ってもらった為、見た目は美味そうに見える。

 しかし、その見た目はあれよあれよと地獄絵図と化する。

 先輩はこれでもかと言わんばかりに、七味唐辛子をたっぷりかけた。胡椒はちょっぴり、ラー油は一滴。

「先輩、チーズと七味、喧嘩は?」

「しないな」

「味は?」

「分かるさ、食べてみろ」

「結構です」

 先輩の味覚を疑ってしまうが、本人が分かれば良いかと結論する。

「「いただきます」」

 それぞれ美味しく頂きました。

 何辛か分からないあのラーメンを美味しそうに食べる先輩を横目で見て思う事。

 この人と結婚したら味覚感覚狂いそう、未来に生まれるであろう先輩の子供、真似しちゃダメだよ。

 本気で思いました。ちゃんちゃん。



「「ごちそうさまでした」」

「あいよー!また来いよ!」

 屋台のラーメン屋を後にして、2人でのんびり歩く。

「少し寄ってこうか」

「はい」

 近くにあった自販機の直ぐ横のベンチに座った。

「んー!またあのラーメン食べに行きたいな!」

「ですね、美味かったんで」

 本当に美味かった。常連になりそうだ。

「だろ?休日にたまに行くんだ、あの屋台」

 胸を張って自慢するように話す先輩。

「へぇー」

「月に1、2回だがな」

 高校生ですからね。

「先輩も一人暮らしでしたか?」

「そうだぞ」

 初めて知った。

「なんでまた」

 自然な流れで質問してみたら。

「自立の一歩を踏み出せ、だとさ」

 カッコイイ両親。

「というのは嘘。自分から言った」

 先輩がイケメンでした。

「実家から通ってる高校は遠いんだ。だから、近くにと思って、一人暮らしを提案したのさ」

「へぇー」

「高1の時は毎週母が買い物したやつを冷蔵庫に入れて、身の回りの掃除洗濯料理をわれに教えながらしていたが、高2からは全部自分でやってる」

 1年で家事習得とか凄い。

「君も一人暮らしだったな?」

「まぁはい」

 やっぱり来たよ、俺の事。

「何故一人暮らし?」

「それは・・・」

 言葉に詰まった。

 なんと言えば良いのか、分からない。

「言いたくないなら話さんでいい」

 先輩は俺の気持ちを悟ってくれたようだ。

 ありがとうございます。

 少しだけ沈黙が流れた。だが、不思議と帰りたいとは思わなかった。

「先輩・・・」

「なんだ?」

 一呼吸をして。

「先輩は・・・生徒会みんなは、何故俺に生徒会長になって欲しいと思っているんですか?」

 理由は知りたいと思って、今ぶつけてみた。

 一方的に「生徒会長になってくれ」とずっと言われてきたから。

 今しか聞けないとも思った。

 ここを逃すと、もう聞けないと思ったから。

「ふぅーむ・・・」

 先輩は何と言えば良いのかという顔で、暫く考え始めた。

 待つこと10分。俺には長く長く感じた。

「それはだなぁ・・・」

「はい」

 鼓動が早くなっていく。


「君しかいない、そう思ったからさ」


 とてもシンプルな理由だった。


「生徒会に入って2年、その内の1年間。生徒会長への準備をしながら、その次の候補を探していた」

 そうだったの!?

「同級生と下級生を片っ端から見て、目星をつけて、じっくり見てきた」

「先輩、探偵に向いてるような気が・・・」

「ちょっと黙れ、話を最後まで聞け」

「すみません」

 この人、脳みそ何個あんの?使い分けしてんのか?というくらい、ハイスペックな行動をしていたのかと思った。

「それである日、君を廊下で見かけた」

「ああ、あれですね」

「ああ、あれだ」


 俺と先輩が初めて出会った日。

 あの日がきっかけで生徒会に誘われて今があるのだ。

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