第6話 あっこれは
待ち合わせ場所に先に着いた。
まだ15分もある。
スマホをいじりながら待つ。
そうしているとあっという間に時間は流れて。
「よっ少年!」
「あっ、せんぱっ・・・」
襟付きの白の長袖シャツに、膝が隠れるくらいの丈の赤黒のチェック柄ジャンパースカート。
そして、いつも結わずにロングヘアを靡かせていた髪型は、ポニーテールに。
「似合わない?」
ぐっ・・・。
「似合ってます」
「良かった!」
不安な時の先輩は、口調が標準語になるため、不意打ちに心が殺られかねない。
「では、行くぞ!」
「は、はい」
隣に並ぶと、普段見えない首が、うなじが、綺麗だなと・・・。
これはもう帰る頃には俺は終わるなぁ・・・。
「楽しみだな!」
「ですね」
鼻歌を歌い上機嫌の先輩と、先が思いやられると不安になる俺であった。
※
「おーおー、よく食べるなぁ~!まだまだあるからなぁ♪」
今はふれあいコーナーにいて餌を与えている。
そう、ここは動物園。
小動物であるモルモットに先輩はにんじんを与えている。
俺はというと。
「君、なかなかやるでないか!」
「あーいやー」
俺を囲むようにうさぎが何故か群がっている。
そのうちの一匹、真っ白な子うさぎを膝の上に乗せて撫でている。
「可愛いなぁ」
癒される、この一言に尽きる。
このふれあいコーナーの前には、ヒグマやライオン、トラ、チーター、ゴリラ、チンパンジーとアグレッシブな動物を見て、その次はキリンにパンダ、コアラ、カンガルーといった動物も見て。
それから現在である。
「君、そろそろあの動物を見よう!」
「あー、先輩の好きなあの動物ですね」
「対面が楽しみだ!」
先輩は優しくモルモットの頭を撫でて「またな、こた!」と言って、モルモットのエリアを出た。
俺も子うさぎを膝から降ろし「またな」と言って、うさぎのエリアを出た。
「よし、
「はーい」
本当に楽しみで、その動物が好きなんだな。
※
「わぁー!!!」
実物はでかかった。
立派な身体、たくましい足、大きな耳、長い鼻、つぶらな瞳が可愛らしい。
「たー君、会いたかったぞ!」
そう、象です。パオーンです。
「お?リンゴが欲しいか?ならあげよう!」
先輩が持っていた林檎を差し出すと、鼻を器用に使ってひょいっと林檎を掴み、口に入れて食べたたー君。
「可愛い~♪」
感嘆して魅とれている先輩。
「ん?何だ鼻を触って良いのか?」
先輩はたー君の鼻を撫でた。
「キャー!可愛い可愛い!」
おいおい。
「はぁ・・・好きな動物が象で本当に良かった!」
溜め息まで吐いちゃって。
「マジで好きなんですね?」
「ああ!小さい頃に一目惚れしてな!」
そういう事ねー。
「象は、人や動物の心を理解出来る、そこも魅力的だ。優しい動物だと思っている」
「なるほど」
象は思いやりがあるって聞いた事あるから、そうなんだろうな。
「いやー、たー君に会えて良かった!」
満足した先輩の顔はとても晴れ晴れしていて、可愛いなと思った。
※
「今日はありがとう!楽しかった!」
「それは良かったです」
待ち合わせ場所に戻った俺と先輩。
夕暮れが帰りを急かしている。
「たー君のぬいぐるみ買ってもらって、すまない」
「いえいえ、プレゼントしたかったんで」
「ありがとう!」
最後にグッズ売り場に寄って、ずっとたー君のぬいぐるみから動かない先輩。
俺はこっそり財布の中を確認して良しと思い、悩める先輩の目の前でぬいぐるみを1つカゴに入れてスタスタとレジに向かい会計を済ませた。
先輩の元に戻って袋を差し出す。
『プレゼントです』
『い、良いの?』
『はい』
『嬉しい・・・ありがとう』
という事でした。
「では、また学校でな!」
「はい、先輩」
先輩はスキップしながら帰って行った。
「さて、俺も帰ろ」
今日は本当に楽しかった。
そして気づかれなくて良かった、俺が先輩に対してドキドキしていた事を。
どうにかなりそうになった。
学校で会って落ち着いていられるか不安だ。
とりあえず、深呼吸してから家に向かって歩き出した。
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