第6話 あっこれは

 待ち合わせ場所に先に着いた。

 まだ15分もある。

 スマホをいじりながら待つ。

 そうしているとあっという間に時間は流れて。

「よっ少年!」

「あっ、せんぱっ・・・」

 襟付きの白の長袖シャツに、膝が隠れるくらいの丈の赤黒のチェック柄ジャンパースカート。

 そして、いつも結わずにロングヘアを靡かせていた髪型は、ポニーテールに。

「似合わない?」

 ぐっ・・・。

「似合ってます」

「良かった!」

 不安な時の先輩は、口調が標準語になるため、不意打ちに心が殺られかねない。

「では、行くぞ!」

「は、はい」

 隣に並ぶと、普段見えない首が、うなじが、綺麗だなと・・・。

 これはもう帰る頃には俺は終わるなぁ・・・。

「楽しみだな!」

「ですね」

 鼻歌を歌い上機嫌の先輩と、先が思いやられると不安になる俺であった。



「おーおー、よく食べるなぁ~!まだまだあるからなぁ♪」

 今はふれあいコーナーにいて餌を与えている。

 そう、ここは動物園。

 小動物であるモルモットに先輩はにんじんを与えている。

 俺はというと。

「君、なかなかやるでないか!」

「あーいやー」

 俺を囲むようにうさぎが何故か群がっている。

 そのうちの一匹、真っ白な子うさぎを膝の上に乗せて撫でている。

「可愛いなぁ」

 癒される、この一言に尽きる。

 このふれあいコーナーの前には、ヒグマやライオン、トラ、チーター、ゴリラ、チンパンジーとアグレッシブな動物を見て、その次はキリンにパンダ、コアラ、カンガルーといった動物も見て。

 それから現在である。

「君、そろそろあの動物を見よう!」

「あー、先輩の好きなあの動物ですね」

「対面が楽しみだ!」

 先輩は優しくモルモットの頭を撫でて「またな、こた!」と言って、モルモットのエリアを出た。

 俺も子うさぎを膝から降ろし「またな」と言って、うさぎのエリアを出た。

「よし、われに着いて来い!」

「はーい」

 本当に楽しみで、その動物が好きなんだな。



「わぁー!!!」

 実物はでかかった。

 立派な身体、たくましい足、大きな耳、長い鼻、つぶらな瞳が可愛らしい。

「たー君、会いたかったぞ!」

 そう、象です。パオーンです。

「お?リンゴが欲しいか?ならあげよう!」

 先輩が持っていた林檎を差し出すと、鼻を器用に使ってひょいっと林檎を掴み、口に入れて食べたたー君。

「可愛い~♪」

 感嘆して魅とれている先輩。

「ん?何だ鼻を触って良いのか?」

 先輩はたー君の鼻を撫でた。

「キャー!可愛い可愛い!」

 おいおい。

「はぁ・・・好きな動物が象で本当に良かった!」

 溜め息まで吐いちゃって。

「マジで好きなんですね?」

「ああ!小さい頃に一目惚れしてな!」

 そういう事ねー。

「象は、人や動物の心を理解出来る、そこも魅力的だ。優しい動物だと思っている」

「なるほど」

 象は思いやりがあるって聞いた事あるから、そうなんだろうな。

「いやー、たー君に会えて良かった!」

 満足した先輩の顔はとても晴れ晴れしていて、可愛いなと思った。



「今日はありがとう!楽しかった!」

「それは良かったです」

 待ち合わせ場所に戻った俺と先輩。

 夕暮れが帰りを急かしている。

「たー君のぬいぐるみ買ってもらって、すまない」

「いえいえ、プレゼントしたかったんで」

「ありがとう!」


 最後にグッズ売り場に寄って、ずっとたー君のぬいぐるみから動かない先輩。

 俺はこっそり財布の中を確認して良しと思い、悩める先輩の目の前でぬいぐるみを1つカゴに入れてスタスタとレジに向かい会計を済ませた。

 先輩の元に戻って袋を差し出す。

『プレゼントです』

『い、良いの?』

『はい』

『嬉しい・・・ありがとう』


 という事でした。

「では、また学校でな!」

「はい、先輩」

 先輩はスキップしながら帰って行った。

「さて、俺も帰ろ」

 今日は本当に楽しかった。

 そして気づかれなくて良かった、俺が先輩に対してドキドキしていた事を。

 どうにかなりそうになった。

 学校で会って落ち着いていられるか不安だ。

 とりあえず、深呼吸してから家に向かって歩き出した。

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