第3話 元気な子

「あ!先輩!」

 売店でパンと牛乳を買い終えた所で、水上みなかみが俺に声をかけた。

「またパンと牛乳?午後の授業持ちます?」

「体育がないから平気さ」

「なるほど!」

 午後に体育がある場合は、食堂に行ってちゃんと食べるし。

「あの、一緒にお昼なんてどうですか?」

「良いよ」

「よっしゃ♪」

 なんだかグイグイ来るなー。


 中庭にあるベンチに2人で並んで座った。

「じゃじゃーん!」

「おっ、弁当か」

「高校生になったんで、早起きして作ってるんです!」

「偉いな」

「お母さんに半分手伝って貰ってまして」

「正直」

「修行します」

 今まで親任せなら、始めたのはつい最近と思えばこれから上達するだろう。

「これからだよ」

「ですね!」

「前向き」

「私の取り柄!」

 明るくなきゃ水上ではないよな。

「先輩、帰りは一緒にどうですか?」

「良いですよ?」

「わぁーい♪」

 喜んで貰えて良かった。

「送ってくから」

「ありがとうございます!」

 愛嬌あるなぁ。



 下校途中、真っ直ぐ帰るのはつまらない、と水上が言ったので、コンビニで飲み物とお菓子を買って、今は公園にいる。

 ベンチに並んで座ってゆっくりする。

 小さい子供連れの親子は全くいない。

 おやつの時間までには帰ってしまうのだろう。

 小中学生は学校が終われば、部活か家で宿題で忙しかったりゲームに夢中なのかも。

 スポーツドリンクを一口飲む。

 少し眠かった頭が冷たい飲料水によって冴える。

「先輩、お疲れですね?」

「まあそれなりに」

「生徒会の役員でしたっけ?」

「うん」

「だからかー」

 お疲れの原因に納得する水上。

 その後、水上はコーラをぐぐっと飲む。

「飲みっぷり良いな」

「一気だと苦しいけど、勢い良くそれなりに飲むと気持ち良いんで」

 確かに。

「夏なら最高だろうな」

「そうなんです!スカッとします!」

 想像するだけで気分が良い。

「あの、質問なんですが」

 もじもじと水上は遠慮がちに。

「何だ?」

 なるべく優しく言った。

「先輩は、そのー・・・」

 何でもズバッと言う水上にしては珍しい。

「どうした?大丈夫か?」

「大丈夫なんですがねぇ」

 水上はペロッと舌を出して頭をかく。

 その後、深呼吸をしてからこう言った。


「好きな人、気になる人、いませんか?」


 おぉ・・・脈絡なく、ある意味ズバッと。

 少し驚いたが、正直に言おう。


「いる、気になる人」


 すると水上は一瞬だけシュンと暗くなったが、すぐに明るくなる。

「そうですか、ですよね!」

 空元気に見えるが、触れないでおこう。

「でもな、付き合いたい、て気持ちはないんだ」

 そう、気になる人がいても付き合いたいまではない、不思議な感覚。

 “好き”なら付き合いたいと思うのだろうか。

「先輩、やっぱ変わってる」

「あはは」

 だよなー。

 ベンチから立ち上がった水上は鞄を肩にかけて、くるりと俺に向き合う。


「でも、そんな先輩が私は好きだなー」


 えっー・・・


 いたずらっ子のような顔をして。

「やっぱ1人で帰りまーす!」

 そう言って水上はダッシュで公園を後にした。

 残された俺はスポーツドリンクを一気に飲んだ。

「ふぅ・・・」

 熱が引くのが分かった。

「忘れよう」

 考えない事にした。

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