第2話 ありふれた教室

 朝の教室、誰もいなかった。

 どうやら1番乗りのようだ。

 そう思っていると。

「おはよう」

「なんだいたんだ」

 1番に来ていたのは冴木さえきだった。

「ふふ、自分が1番って思ったんでしょ?」

「バレた?」

「バレバレ」

 2人で笑った。

「今日はなんで?」

「日直」

「なるほど」

 それにしても早い。

「何時にここに?」

「6時半」

 俺は目を大きくして驚いた。

「いろいろあるの」

 それでも早過ぎ。



 6時間目の授業が終わり、教材を職員室に持っていく冴木を見ていて、量が多いような気がした。

 だから俺は。

「手伝う」

「いいの?ありがとう」

 重たいカゴを持つ。

「おぅもっ」

「みんなのノートとプリントとかね」

 冴木はカゴに入り切らなかったノートと本2冊を持つ。

「やっぱ選手交代」

「だーめ」

「ですよねー」

 ドアの近くにいたクラスメイトに開けて貰って、俺と冴木は職員室に向かった。


「「失礼しました」」

 先生にノート等の物を届け終えて職員室を出た。

「プリント託されたな」

「ついでに持ってけって、ね」

 俺と冴木の担任はちゃっかりしている。

 職員室に自分のクラスの生徒が現れると、必ず言伝かプリントを託す。

 楽したがりなのかもしれない。

「まあ、でも憎めないから尚更な」

「うんうん」

 大袈裟に頷く冴木。

「さっ、早く戻って配っちゃお!」

 早歩きで教室に向かう冴木の後を追った。



 生徒会室から教室に戻る。

 放課後の教室は割りと好きな方だ。

 机の上に鞄がちらほらあっても、誰かがいても、全員集合していないのが良い。

 日中の余韻が漂っていて、1日が終わる実感が湧いてくる。

 帰ろうと机の脇にあった鞄を手に取って肩にかけた。

 椅子が少し後ろに出ていたので、机にきちんと戻した。

 これで帰れる、そう思っていると。

「まだいたんだ」

「冴木」

「忙しいんだね生徒会」

「まあな」

 冴木の手にある黒板消しが綺麗になっている。

「教室の物を綺麗にしちゃって」

「明日気持ち良く使いたいかと思って」

「それな」

 相変わらずの綺麗好き。

 黒板消しを元の場所に置いた後に冴木は言った。

「ねえ、一緒に帰らない?」

「良いよ」

「やった」

 嬉しそうな顔をした冴木。

 可愛いやつだな。

 鞄を肩にかけた所で「帰ろ」と再度冴木は言った。


 何気ないありふれた教室での出来事。

 面白みはないが、俺にとっての当たり前で、当たり前過ぎて、なくなってしまう衝撃は計り知れない。

 そう思う今日この頃。


 冴木を家まで送り、俺は真っ直ぐアパートに帰った。

 部屋に入る前に大家さんと会って、また野菜を頂いてしまった。

 毎度すみません。美味しく頂きます。

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