第30話 ミレニアの領都訪問①
私は、お父様の許しを得て、馬車で最初の領都を目指していた。
補助魔法に長けた魔導士と聖騎士たちが、馬車の周りを囲んで、馬に乗って並走している。
この旅は一日で済むようなものでもないから、私の身の回りの世話をするものが必要だ。だから、マリアが私に付き従ってくれた。彼女は馬車の中で私と向かい合わせに座っている。
その馬たちは、魔導士の補助魔法によって移動速度が上がっている。
けれど、それで強行していれば、馬は疲れ果ててしまう。
そこは私の出番で、馬たちに治癒魔法を施して、疲労を取り除くのだ。
……まあ、ちょっと馬たちには厳しいことをさせてしまっているわね。
そう思うけれど、最短期間でならば、というのがお父様の条件。
馬たちには、サポートを支えに頑張ってもらうしかなかった。
馬車はそのスピードと比例するかのように、激しく揺れる。馬車の天井から吊るされた、支えとなる丈夫な紐を掴んで、私とマリアはその体を支えていた。
そして、私たち一行は通常以上のスピードで移動しているから、一番先頭を走る聖騎士が、周囲に退くように警告しながら事故に巻き込まれるものがいないように配慮した。
そうして、王都から最も近いアルストリア公爵家が治める領土に入る。領都の名前も、その公爵の家名をとって、アルストリアという。
「ようやくアルストリアの領都が見えてきました」
器用に馬を操って、ルークが馬車に馬を並ばせて、中にいる私たちに教えてくれた。
「今日中には領都につけましょう」
「わかったわ。ありがとう」
そう伝えて、ルークが持ち場に戻っていった。
目的の領都にある貴族の城(または屋敷)に逗留させてもらう約束を取り付けてあるそうだ。けれど、急ぎで移動していても、次の領都に到着するとは限らない。
だから、領都と領都の間で逗留が必要な場合は、なるべく大きな街を選んで、安全な宿に泊まることになっている。
そうして、やっと馬車が止まり、目的地についたことを知る。
馬車についた小さな小窓に隙間を作って外を覗くと、ルークがお父様の認めた命令書を、領都の門を守る警備兵に見せていた。
「マリア、アルストリアについたみたいよ」
「ようやく、最初の領都につきましたね」
私たちは頷き合って、ほっと表情を緩めて微笑みあった。
門での審査にはそう時間はかからず、程なくして領都の門を潜ることを許された。馬車が、ガタリと揺れ、ゆっくりと領都の中に入り、歩道を進んでいく。
私は、開けた隙間から初めて見る王都以外の街の景色を覗いてみた。
「ねえ、マリア。ここは王都で見たことがある街並みよりも、なんだか簡素な感じね」
「この辺りは、平民街でしょう」
マリア曰く、大抵、この国の都市の構造は、門から入ったばかりの道の周りは、一般区で平民が住んでいるらしい。古びた集合住宅や、商店が並んでいた。
もっと進んでいくと、街並みの雰囲気がだいぶ変わってくる。
おそらく貴族が住むためのものであろう。
家紋が入り口の上に装飾された、しっかりとした作りの建物が増えていく。商店も、規模が大きく、装飾などが贅沢なものになっていた。
「ここは貴族街かしらね」
「そうですね」
けれど、一般区も、貴族街も、人通りはまばらだった。そして、商店も一部は閉店していた。
「もう少し賑やかであってもいいのに」
私は思ったことをそのまま口にした。すると、外に声が漏れてしまっていたのか、馬車の隣を進むルークに声をかけられた。
「この領都は王都との流通も多く、感染が進んでいると聞いています。ですから、外出を控えるものが多いのでしょう」
なるほど。
問題を解決しないと、人々も安心して暮らせないのね。
「ルーク、先を急いで。すぐにでも、アルストリア公爵にご挨拶をして許可をいただけたら、すぐに治療魔法を使いたいわ」
「承知しました」
私たちは、馬たちを少し急がせるのだった。
そうして、領都の最奥に建つ城に到着した。
王城とまではいかないが、さすがは王都の近くに領地を持つ公爵家といったところなのだろうか?
その城の規模は大きかった。
城の警備兵が私たち一行を認めると、すぐに城門が開かれた。
私たちの馬車には、王家の紋章を模した臨時の紋章をつけている。作りは急拵えなので簡易的なものだ。
王家の紋章を馬車につけて旅をしても、それは盗賊などの悪人を呼び寄せかねない。
旅の安全を考えて、目的地の領主にだけ、その紋章が早馬で伝えられていた。
だから、ごく一部のものであれば、「私が来た」ことがわかるのだ。
そうして、城の玄関前で馬車が止まる。
ルークが馬車の扉を開けてくれて、彼の手を借りて、私は城の玄関前に降り立った。
「ミレニア姫様! ようこそおいでくださいました! 私、ダンケ・フォン・アルストリアと申します! 姫様直々に我が領民を癒しに訪れてくださったとのこと。感謝に耐えません!」
ずらりと、公爵の家族かと思われる人たちと、使用人たちが並ぶ。そして驚いたことに、その中央に、公爵本人がいたのだ。
……ならば、話は早い。
「アルストリア卿。この領都は王都と近く、感染者も多いと聞いております。今救える一人の命も失いたくありません。癒しの魔法を行使することを認めていただけますか?」
「長旅で、お疲れなのではありませんか?」
「それは否定できません。ですが、今日やらなかったことで、今日救えなかったものたちのことを明日悔やみたくないのです」
「「「姫様……」」」
玄関で並ぶ人々や、私の護衛のためについてきてくれた聖騎士団、マリア、魔導士が、何か崇高な存在でも見るかのように、私をじっと見る。
「ならば、私に異論はございません。ぜひ、我が領民をお助けください……!」
公爵がそう言って、私の望みに同意してくれた。
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