第28話 流行り病④
私はその場でお父様の許可を取り、ルークとマリアを伴って教会へ向かうことにした。
「猊下!」
私は、教会に着くとすぐ、ルークの案内で、私を待っていた教皇猊下のもとに向かった。
「おお、ミレニア姫!」
教皇猊下は、「待っておりました」と言わんばかりに、私に向かって両手を広げて立っていた。
「ルークから、教会には聖魔法や奇跡の力に関する書物があると聞きました。この流行り病を根元から断つために、それらの書物の閲覧許可をいただきたいのです」
そうして、フィレスから聞いた、「病原体」というものの話を猊下に説明した。
「なるほど」
それを聞いて、納得したように猊下は頷いた。
「猊下、お願いです!」
「ああ、皆まで言わずとも、閲覧の許可はだそう。今は、国の危機。そして国民が危機にさらされているのだから」
そうして私は猊下から許可を与えられ、書庫へと案内されることになった。
ありがたいことに、人手がいるだろうと猊下自ら申し出てくださった。
猊下やルークを含めた、手の空いている教会のみなで手分けして書庫を調べることになった。
もちろん、今苦しんでいる人々を癒すために治療にあたるものも割り当てられている。
そうして私たちは、聖魔法に関する書物や、偉大な聖人たちについて書かれた書物を中心に、何か手がかりはないかと手分けして文献を調べていた。
書庫に収められた文献は数が多く、それはすでに数日に渡っていた。
……手がかりは、ないものかしら。
私はそう思いながら順番に書物に目を通す。
そして次の本に指をかけて、書架から引き出し、ページをめくり始めた。
その本はパッと見るだけで相当古いのがわかるものだった。
……あら?
その本に書かれた文字は、ユーストリアのものでも、ダルケンのものでもなかった。私にはその文字は読めない。
けれど、時折魔法陣が描かたページがあったので、それが魔法に関するものだと理解できた。
私は、その本が気になって、閲覧机に移動して腰を下ろした。
机の上に持ってきた本を置いて、ページをめくる。
わかるのは、所々に描かれている魔法陣だけ。
けれど、魔法陣を構成する文字と記号、数字は私が学んだものと同じもので構成されている。だから、魔法陣だけを見ていても、大体何の目的で使われる魔法なのかは、時間をかければ読み解くことができた。
その本に書かれている魔法陣は、治療や浄化といったものが多いことが段々把握できてくる。
時間はかかるけれど、この本には何かヒントがありそうな気がして、私は腰を据えて解読していった。
そうして、その本を読み解き始めてから二日目。
「……あ」
思わず私は声を漏らした。
「姫様。どうかされましたか?」
そばにいたルークが小声で尋ねてきた。
「これは、『邪悪なるものをこの世界から浄化する』という意味を持つ魔法陣だわ。もし、この魔法陣を『人体に悪影響のある病原体を浄化する』に変えられたら、どうかしら?」
「……それならば、それを魔法として行使すれば、根元からの対処が可能かもしれません……! 教皇猊下をお呼びします!」
「お願いするわ」
そうして、室内に足音を響かせないように配慮しながらも足早にルークが去っていく。
そして、その魔法陣を解読しながら待っていると、ルークが教皇猊下をお連れして戻ってきた。
「ミレニア姫。手立てとなりそうな書物を見つけたとか……!」
「はい、猊下。これです。これは、『邪悪なるものをこの世界から浄化する』という意味を持つ魔法陣です。もし、この魔法陣を『人体に悪影響のある病原体を浄化する』に変えられれば、今の災いをもとから消せるかもしれません」
私はそう説明して、その魔法陣が描かれているページを猊下に示した。
「どれどれ……」
ルークが私の隣の椅子をひき、猊下がそこに腰を下ろした。
魔法陣とはすぐに読み取れるものではない。それを知っているから、猊下が黙っている間、私はじっと待っていた。
「ああ、なるほど……。姫のいうとおり、ここの部分の効果を定める文字列を置き換え、そして、範囲を定めるこの数字と記号をこの王都の広さに指定すれば……」
猊下が、魔法陣を指でなぞりながら、解読していく。
「……時間はかかるかもしれませんが、可能かもしれません」
「そうですな」
そうして、私と猊下を中心にして、その魔法陣の書き換え作業を始めた。
また数日が費やされる。
「これで、対応が可能でしょう」
教皇猊下が、感慨深そうに呟いた。
ようやく、改良した魔法陣が完成したのだ。
「神に使える身でお恥ずかしいことですが、ここにいるものの中で、総魔力量が一番潤沢なのは、姫、あなた様です。これは前回の範囲回復と同じく、王都全体という広い範囲に対して施すもの。姫にこの完成した魔法を行使していただきたいのですが……」
「もちろんです」
私はしっかりとその魔法陣を脳裏に焼きつけた。
そして、椅子から立ち上がる。
両手を左右に広げ、王都全体に行き渡るようにと、イメージする。
「
今日は一度も魔法を使っていない。もう一回、全体魔法を使えそうな手応えを感じた。
まず、災いをもたらすものを消した。次は、すでにそれに体を冒されている人たちの回復を……!
「
私の足元に、光り輝く魔法陣が二つ展開された。
それは私を起点として範囲を広げ、王都を覆っていったのだった。
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