第25話 流行り病①(ミレニア十歳)

注意:こういうご時世の中で申し訳ありませんが、話の都合上、流行り病の描写が続きます。

ただし、ミレニアの努力が実り、彼女の力でそれを解決していく展開になりますので、長く、辛い描写は続きませんので、ご理解ください。

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 私は十歳になった。

 その日、私は週に一度の奉仕活動のために、教会を訪れていた。

 最初にこの奉仕を始めた頃よりも、治癒魔法の威力も上がり、そして、総魔力量というものも増え、対応できる患者やその人数が増えていた。


 フィレスが最初に教えてくれた、「魔力を練る」ことを日常とすることが、身を結び始めていて、私の総魔力量は、教会のどの治癒士よりも多くなっている。


 その日、いつもより咳や発熱などの症状を訴える患者が多かった。だからなのか、二人のシスターとともに、三人で対応に当たっていた。

 聖騎士ルークも私の護衛のために、私たち三人のそばに控えていた。


「風邪が流行っているのでしょうか?」

「それにしても、ちょっと今までに経験がないくらいに多いですし……」

 ちょうど治療を求めるものたちが途絶えたときに、シスターたちが憂い顔で話し出す。


「……それに、前の週、その前の週より多い気がするのだけれど、どうなのかしら?」

 私は、なんとなく肌感覚で感じたことをシスターに尋ねてみた。

 彼女たちは私と違って、勤めが週に一日などと決まってはいない。ならば、状況は彼女たちの方がより詳しく把握しているだろう。そう思ったのだ。


 シスターたちは顔を見合わせた。

「そういえば、だんだん増えているような……」

「言われてみれば、確かに……」

 けれど、私たちに今できることは、治癒を求めるものに、それを与えることしかできず、次々と訪れる患者たちを癒したのだった。


 ◆


 私の勘は、残念ながら当たってしまったらしい。週一で教会へ訪れるたびに、患者は増えていった。

 とうとう教会に所属する癒し手だけでは足らないと教会から要請が出て、国軍所属の治癒士たちも教会に派遣されることに決まった。

 それでも、その病の流行は収まりを見せなかった。


 ……私も、週に一度なんて言っている場合じゃない!


 そう思っていたら、その真逆の指示がお父様から下った。

「ミレニアは安全な城でおとなしくしているように」と。


 お父様の指示で、王城は流行り病の兆候が見られるものの入城を認めない方針にしたらしい。

 だから、城にいれば私は安全だろうという意味での指示らしかった。

 そして、暗に教会での治癒にも関わるな、ということだろう。


「ねえマリア。今私に必要なことは何かしら? 安全な城で大人しく勉強すること?」

「……姫様」

 マリアは憂い顔で答えられないでいる。

「私には人を癒す力があるわ。ならば、それを王都の民のために使いたいのよ」


 そう思って、私は事前の許可を得ないまま、お父様の執務室に直訴しにいくことにした。マリアが心配そうな顔をして、後をついてくる。

「お父様! ミレニアです。お父様にお願いがあります!」

 私は、お父様の執務室の前で、室内へと声をかけた。


「ミレニア?」

 お父様の驚いた様子の声が聞こえた。そして、少し経ってから「入室するがよい」との許可が下りた。


 マリアが部屋の入り口を開けて、私が入室する。

 執務室には、お父様とフィレスがいた。

 二人は、私が来訪したためか、執務の手を止めていた。


「どうした、ミレニア」

「ミレニア姫。今陛下は王都を襲う流行り病の対応でお忙しい。ご用件は手短にお願いいたします」

 フィレスにしては厳しい物言いで、そう告げられる。

 当然だろう。状況が状況なのだから。


「ではお願いです。私の教会での奉仕を、週に一度ではなく、できる限り多く通わせてほしいのです。教会では癒し手が足りないと聞いております。私は治癒魔法が使えます。ならば、今こそその力を苦しむ人々のために使いたいのです!」

 それを聞いて、驚いたようにお父様とフィレスが顔を見合わせた。


「確かに、今は一人でも癒し手が必要な状況ですね」

 先にフィレスが反応した。彼が神妙な面持ちで頷いた。

「だが……ミレニアがこの病に罹ったら……」

 お父様は認めることができないらしい。


「ミレニア姫。あなたがそう申し出るということは、この流行り病に対応できるということでしょうか?」

 決断できないお父様を置いて、フィレスが私に尋ねかけてきた。


「はい。教会ですでにこの流行り病にかかった人々を癒してきました」

「……なるほど」

「だが、ミレニアにそんな危険と隣り合わせの行為を認めるわけにはいかない! 私は、二度とエレナを失いたくないのだ!」

 お父様の叫ぶような声で吐き出された言葉に、私は耳を疑った。


 ……エレナ。お母様よね?

 二度と、とはどういう意味だろう。

 私は、私。

 お母様じゃないわ。


 私はお父様の私への愛情というものに、深い疑念を抱いた。


「……陛下。ミレニア姫は、この流行り病を治せます。それがどういうことかお分かりですか?」

「わからんわ!」

 お父様は顔を真っ赤にして叫んだ。


 ……お父様が、怖い。


 お父様の剣幕に、私は後ずさりたい気持ちになった。

 そんなお父様に対して、フィレスは臆することなく、そして冷静に説明する。


「ミレニア姫は、この病を癒せます。それは、仮に姫自身がこの病にかかっても、自分で自分を癒せるということです」

 それを聞いたお父様の顔が徐々に穏やかになり、そして驚きに目を見開いていく。


「ミレニアは大丈夫だということか」

「はい」

「じゃあ……!」

 私は、話が好転する様子に、身を乗り出した。


「何よりも今は、一人でも治癒できるものが必要なとき。そして、ミレニア姫自らがそれに参加するということは、王家への支持も高めるでしょう」

「なるほど……ミレニア、良いか。自分で治せないとか、少しでも問題があれば直ちに戻れ。良いか?」

「はい!」

 そうして、私は、通常よりも頻繁に教会へ通えることになったのだった。

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