第18話 ミレニアと聖騎士ルーク①
その
そして、聖魔法については、訓練や魔物の討伐で負傷した騎士や兵士たちに治癒魔法を施すことで、自分の意思で魔法を発動できるようになっていった。
そうしてまたひと月ほど経った頃だろうか。
ようやく教会との調整が取れたということで、専属で私の護衛をしてくれる騎士の責任者が、私に面会に来ることになった。
なんでも、教会の聖騎士を務めている人だという。
ちなみに、騎士というのは武力をもって、国や貴族に採用されるもののことを言う。もちろん、魔法を武力と魔法の両方の力をもって、魔法騎士として活躍するものもいる。
それと違って聖騎士というのは、教会に採用された騎士のことをいう。
深い信仰心を持ち、武力、そして、奇跡の力とも言われる聖魔法や光魔法を行使できるものが優先的に採用されるのが特徴だ。
場所は小さめの面会室でということになったので、私はマリアを伴ってその部屋に移動した。
「ミレニア姫様がお付きです」
部屋の前に到着して、マリアがノックをして、私の来訪を告げる。
「入ってください」
中から、フィレスの声がした。
それを聞いて、マリアが扉を開けくれる。
「マリア、ありがとう」
私はその開いた扉をくぐって客室に足を踏み入れた。
部屋の中には、応接用のソファーとテーブルのセットの横に、男性が二人並んで立っていた。
一人はフィレス。
そして、もう一人は、初めて会う男性だ。
銀色の短い髪、緑色の目。
腰に帯剣していて、体つきは鍛錬で鍛えられたようにしっかりしている。
彼は、首に教会のシンボルでもある彫り物を施したネックレスを下げていた。
けれど顔や姿といった容姿全体で評価すれば、彼は華やかさがあり、たおやかだった。
年頃はおそらく二十代半ばだろうか。
見目麗しく、きっと彼に出会った女性たちは、彼を放っておかないだろうと想像させる。
……この人が、私を護衛してくれるという聖騎士だろうか?
私がそう推測するには、容易かった。
「お初にお目見えします。ミレニア姫様の護衛を仰せ付かりました、ルーク・フォン・ダグラスと申します。弱輩ながら、聖騎士第二師団の団長を務めております」
ルークと名乗った彼が、胸に片手を当てて、礼を執る。
「ダグラス卿は、聖騎士団の中でも、若くして師団長に任命された英才。家柄も侯爵家の出。実力も確かですし、姫をお守りするのにふさわしい方です」
頭を下げているルークを横目で見てから、彼の実力を保証をするように、私に説明してくれた。
「それは頼もしいわ。……私は、ミレニア・フォン・ユーストリア。ルーク、これから、よろしくお願いしますね」
ルークに声をかけると、彼が下げていた頭を上げる。
「はい。神に誓って、姫様を必ずやお守りいたします」
そう誓ってくれるルークの顔は麗しく、頼もしい。
そうして、私は無事教会で奉仕活動をすることができるようになったのだった。
◆
私の奉仕活動は、ひとまず週に一度のペースと決められた。
そうして、初めて奉仕活動のために教会へ向かうことになった。
護衛の都合上、基本開けることのない小さな小窓のついた、馬車に乗って移動する。馬車の中には、私と向かい合うようにマリアが座っている。
そして、その馬車の周りを、馬に乗ったルークたち聖騎士が護衛していた。
馬車が止まって、教会についたことを知らされる。
マリアが先に立ち上がり、馬車の入り口を開けて外に出た。
差し出したマリアの手を借りながら、私は外に出る。
……そういえば、滅多に城の外に出たこともなかったわね。
目の前に聳え立つ荘厳な教会と、それを取り囲む木々、澄んだ青空と白い雲を目の当たりにして、私は、ひとときの開放感に酔いしれた。
なんだか、城の中とは空気の匂いも違うような気がする。
「姫様。今日はまず、教皇猊下にご挨拶をなさいましょう」
馬から降りたルークが私に申し出た。
この国の国教であるグルシア教、その長である教皇猊下は、王都の中央教会であるここにいらっしゃるのだそうだ。
「そうね。これからお世話になるんですもの。猊下にご挨拶をするのが礼儀ね」
私が納得して頷くと、ルークが微笑んだ。そして、彼の部下だろうか、他の聖騎士たちに目配せをした。
彼らは、教会の中央にある観音開きの大きな扉に向かって走っていった。
「さあ、参りましょう」
アルトに促されて、私はマリアを伴って入り口に歩いていく。
入り口に到着すると、先回りしていた聖騎士たちが扉を開けてくれる。このために先に行かせたようだ。
入り口をくぐって、すぐ目の前に広がる礼拝堂を眺める。
私はその壮麗さに感嘆のため息を漏らした。
石造りの建物には、等間隔で柱が並び、その柱一つ一つにグルシア教の神々の彫刻が施されている。
礼拝堂の壁と天井には、神々の物語を伝えるための絵が無数に、そして繊細に描かれている。
室内に明かりを取り込むための窓は、ただの窓ではなく、色とりどりのガラスで、やはり絵が描かれている。そこには、聖人や殉教者と言われる人々がいて、彼らを祝福するかのように天使たちが彼らの周りを舞っている。
「……すごいわ」
感動して両手を胸で押さえている私を、ルークたち聖騎士は微笑ましいものでも見るように見守ってくれていた。
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