第16話 ミレニアのこれから②
数日後、お父様の政務の合間に時間を取れると、フィレスが調整してきてくれたので、私は彼と一緒にお父様の執務室へ赴くことになった。
「おお、ミレニア!」
私たちが許可を得て入室すると、お父様が執務机の椅子から立ち上がり、私の目の前までやってきた。
「お久しぶりです。お父様」
私は、お父様に対して礼を
義理とはいっても親子なのに、久しぶりというのは不思議に思われるだろうか?
けれど、色々な政務を抱える王族であり、そしてお父様とお兄様があまり仲が良くなさそうだということを考えると、そんなものかと納得していた。
遺児となった娘を引き取って養育してくれるのだ。それだけでもありがたいと思うべきだろう。
「先日、魔法の才能が開花した聞いた。その上、エドワルドの命を救ってくれたと聞いたぞ! 礼を言う」
お父様が興奮気味にそう言って、私と目の高さを合わせるためか、しゃがみ込む。
「ああ、本当に愛らしい。この顔はエレナそっくりだな」
そう言ってお父様が頬を撫でた。
……今って、私の顔のことを言うところだったかしら?
私は、お父様の言葉に一瞬疑問を抱いたけれど、今日の訪問の本題ではないので、そこは気にしないでおくことにした。
「お父様」
私は、話題を変えようと、お父様に呼びかけた。
「なんだい?」
「フィレスに、私が使えた聖魔法は希少なものだと教わりました。ならば、私はそれを伸ばしたいのです」
「うむ。それで?」
「フィレスに、聖魔法の力を伸ばしたいのであれば、教会で回復魔法による奉仕を行えば良いと提案を受けたのです。そのお許しをいただきたくて参りました」
「なるほど……。だが、城の外に出る。ミレニアの身に危険が降りかかることも……」
お父様がそう呟いて、しゃがんだままの姿勢で、私の隣に立っているフィレスに意見を求めるように、視線を送った。
「その懸念については、信頼できるものを姫の護衛につければよろしいのでは? 姫に芽生えた力は大変希少で貴重なもの。回復魔法の使い手は、そうそう見つかるものではありません。その希少な能力をそのままにしておくのはどうかと思いますが……」
「確かに……」
「ならば、姫様自身が望んでいることですし、その可能性の芽を伸ばせるようにするのが、姫様のためにもなり、国のためにもなるでしょう」
……さすがはフィレス!
ついてきてもらってよかったわ。
お父様も、フィレスの意見に耳を傾けているようだ。
「なるほどな。ミレニアがその能力を真っ直ぐに伸ばすことができれば、王家の誉になるだろう。それに、王家の姫が足を運んで教会で慈善活動をすると言うのは、国民感情にも良い影響を与えるかもしれん」
「仰るとおりです」
フィレスの付き添いもあってか、お父様が前向きに考えてくれてくださっていた。
「お父様、私は教会での奉仕をお許しいただけるのでしょうか?」
「うむ。フィレスもこれだけ推しているのだ。教会と相談して、ミレニアの望みが叶うように取り計ろう。ああ、護衛のことも相談せねば……」
そう言って、あとはお父様とフィレスが、教会と話をつけてくれると言うことになった。
私は、マリアを呼んでもらい、彼女と二人で執務室を辞することにした。
◆
その日の午後、お兄様から部屋に来て欲しいと手紙が送られてきた。
こんなことは初めてだ。
珍しいこともあるものだと思っていたら、先日彼を救ったことのお礼に、彼の部屋でお茶とお菓子を振る舞いたいとのお誘いだった。
「ああ、いらっしゃい」
入室の許可を受けて、マリアが開けてくれたドアを潜ってお兄様の部屋に入ると、お兄様が笑顔で私を迎えてくれた。
「お招きありがとうございます。エドワルドお兄様」
そう言って礼をすると、「かしこまらないで」と制された。
「さあ、僕の侍女に美味しいお茶とお菓子を用意させたんだ。君の口に合うといいんだけれど……」
そう言って、お兄様が室内に備え付けられたテーブルの方へと私を促した。
そのテーブルで、向かい合いになるように、私とお兄様が腰を下ろす。
それを見て、お兄様の侍女が私たち二人にお茶を淹れてくれた。
お茶菓子は、中央に一口大の様々なものが集められていて、とりわけようだろう、小さなトングが添えられていた。
最近作られるようになったというチョコレイトを筆頭に、マドレーヌ、フィナンシエ、ジャムで彩られたクッキーなどの焼き菓子が綺麗に盛り付けられている。
そして、私たちの前には、中央の皿から食べたいと思ったものを選んで置くのであろう、何も載っていない小さな皿が置かれている。
「まずは、君にお礼を言わないとね」
侍女が給仕を終えたのを見て、お兄様が話を切り出した。
「先日は、危ないところを救ってくれてありがとう。侍医に、あの蛇にまともに噛まれていたら、あれがまだ子供とはいえ、命の危険があったと聞かされたよ」
「エドワルドお兄様がご無事でよかったです。……ただ、その一心だけでしたから」
私の言葉は本心だ。何も、魔法を使ってみたくて使ったわけではない。
ただ、あの事態をなんとかして、お兄様をお救いしたかった。
「ありがとう、ミレニア。……ああ、名前で呼んでもいいかい?」
お兄様からの問いに、私は驚きで目を大きく見開いた。
……お兄様に、未だかつて名前で呼ばれたことなんてないのに!
「もちろんです、エドワルドお兄……」
「そっちも、愛称のエドに変えてもらえると嬉しいな。僕は命の恩人でもあり、妹であるミレニアと、もっと仲良くなりたいんだ」
更なる驚きで、私は目を瞬かせた。
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