第14話 ミレニアの能力開花②

 やがて、マリアが一人の兵士を連れてやってきた。

「殿下! 姫様!」

 二人は私たちのもとへ駆けつけてきた。


「……ええと、これは……?」

 兵士が私たちを見て首を捻った。

 私たちのそばには氷づけになった小さな毒へびが転がっていて、お兄様が尻餅をついていた。


 少し遅れて、お兄様の侍女も兵士を一人連れてやってきた。


「彼女が蛇を凍らせてくれて、そして傷を癒してくれた……」

 お兄様がそう兵士に告げると、私を見た。

 その瞳は、驚きと感謝? 尊敬? ともかく、好意的な色を帯びている。


「ミレニア殿下が……」

 兵士が驚いた顔をして、私を見た。

「多分、私は魔法でお兄様を癒したわ。でも、本当に大丈夫なのか、医者に見せないとわからないわ」

 そう告げると、マリアと兵士が顔を見合わせて、はっとした顔をする。


「すぐにお部屋にお連れしましょう!」

 兵士はお兄様の膝と脇に腕を回し、軽々と抱き上げた。


「私は、早急に侍医を殿下のお部屋にいくように手配します!」

 マリアが叫ぶ。


 そして、あとからやってきたお兄様の侍女が連れてきた兵士は「事態を陛下に報告する」と言った。


「では、私はミレニア姫様をお部屋へお連れしましょう」

 そう申し出てくれて、それぞれ移動するのだった。


 ◆


 お兄様が無事であることを願いながら、自室のソファに腰を下ろして落ち着かない時間を過ごしていると、コンコン、とドアをノックする音がした。


「マリアです」

「入って!」

 マリアはお兄様のために侍医を呼びに行っていて、その役目を終えて戻ってきたのだろう。

 もしかしたら、お兄様の容体のことを聞けるかもしれないと思って、気が急いた。


「失礼します」

 ドアを開けて部屋に入ってきたマリアのために、私はソファの中央から端に移動して、空いた反対側をマリアに指し示した。

「座ってちょうだい! そして、お兄様のことを聞かせて欲しいの」


 そんな私の言葉に、マリアは躊躇した。

「ミレニア姫様の横に座るなど……」

 失敬だと言いたいのだろうか?

 でも今私は、彼女に近くにいてもらって、お兄様のことを聞かせて欲しいのだ。


「いいのよ! ここに座って、お兄様の容体とか、知っていることを教えてちょうだい!」

 私は、マリアを急かした。

 私の気持ちを汲み取ってくれたらしく、マリアが笑みを浮かべた。


「ミレニア姫様は、お兄様思いなのですね。……では、お言葉に甘えて」

 彼女は私の隣に腰を下ろした。


「で、どうなの? 知っているの?」

 私は、マリアの方に身を乗り出した。

「大丈夫です。……もう、大丈夫だと伺いました」

 マリアはそう答えて、にこりと微笑んだ。

 私は安堵のため息を漏らし、胸を撫で下ろした。


「侍医の見立てでは、王太子殿下には何も異常はないそうです。怪我も綺麗に治っていますし、毒の心配もないそうですよ」

「……良かった……」

 私の胸が、安堵と喜びで温かくなる。


「殿下の件を聞いた陛下と宰相閣下も駆けつけましたが、お二人ともお喜びでした。……ああ、そうでした。宰相閣下が、あとで姫様とお話をしたいとおっしゃっておられましたよ」


 フィレスが私と話をしたがっている。

 彼は私の魔法の師だから、弟子である私が、本当に魔法を行使できたのか、確認をしたいというところかしら?


 今すぐフィレスの執務室へ行くべきか、どうしよう、と思って時計を見ると、すでに夕食の時間を迎えようという頃だった。


「さすがに今日はもう遅いわね」

「姫様。それもありますが、今日は色々なことがありました。……お疲れでしょうから、今日はもうゆっくりされることをお勧めしますよ」

「それもそうね。フィレスにも迷惑になるでしょうし」

 結局私は、マリアの勧めのとおり、ゆっくりしてから食事を摂って休んだのだった。


 次の日の午前中。

 私はフィレスの執務室を訪れた。


「おはようございます。フィレス」

「おはようございます。ミレニア姫」

 彼が座っている執務机の前に立って、朝の挨拶をした。


「フィレスが話をしたいと言っていたと聞いたので、伺いました。……昨日の、お兄様の件でしょうか?」


「ええ、そうです。あなたが魔法で蛇を退治し、そしてエドワルド殿下を治療したと聞いています。……それは事実ですか?」


「はい。お兄様をお助けしたいと……そう願ったら、暗記していた魔法陣が頭の中に現れて……自然に魔法が発動したのです」

 私は、その時の不思議な現象を、できるだけ正確にフィレスに伝えようと注意しながら、彼の問いに答えた。


「素晴らしい! それは素晴らしいですよ! ……ああ、立たせたままではなんです。あちらでゆっくり伺いましょう。これからのあなたの能力の伸ばし方も、きっとそこから導き出せるでしょう」

 フィレスにしては珍しく高揚した口調でそういうと、前に二人で話し合ったソファを指し示された。


 私たちは、移動して、また向かい合ってそのソファに腰を下ろすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る