第12話 ミレニアの魔法訓練④
まず目次の構成を説明される。そこは、さっきフィレスから聞かされたこの本の概要と、大きな差はないので割愛する。
「では、魔法理論の章に進みましょう」
そう言ってフィレスがページを捲った。
そこには、丸い円形の絵と、それを構成する文字や数字、記号などの説明が書いてあった。
「これは魔法陣です。何か魔法を行使できるようになるには、基本的には、まず、この魔法陣とそれを構成する要素を理解する必要があります」
「基本的に?」
じゃあ『基本』以外の抜け道もあるのだろうか? と疑問を持ってもおかしく……ないわよね?
「また、近道を探そうとでも思ったのですか?」
フィレスに、くすりと笑われてしまった。彼の顔には、仕方がないなぁって表情が浮かんで見える。
「だって……、あなたが、わざわざ『基本は』なんて前置きするのだもの」
ちょっと恥ずかしくなってきて、私は抗議とばかりに頬を膨らませた。
……それにしても私、今回は表情を顔に出すことができるようになってきている?
ふと、膨らませた頬を戻して、私はその頬を撫でた。
なぜなら今までの生では『氷の妖精姫』なんて言われるほど、感情と表情に乏しかったのだ。
どうしてなんだろう?
そう思いながら隣に座るフィレスを見ると、私が考えているのを待っているかのように、ただ静かに微笑んでいた。
……私が人への態度を変えると、私に対する人の態度が変わる。そうすると、それを受けた私の感情や態度というものも変わっていくものなのかしら?
それは、初めての発見だった。
「……っと、ごめんなさい、フィレス。少し考え事をしてしまったわ」
私は待たせたことを謝罪した。
「大丈夫ですよ」
彼は優しく受け入れてくれた。
そして、こう続けたのだ。
「……私はあなたとこうしていられることが嬉しい。あなたに考える時間が必要ならば、いくらでもこうして私は待っていますよ」
……私、まだフィレスに師事して間もないわよね?
どうしてそこまで好意的なのだろうと疑問が浮かぶ。けれど、今は勉強するためにここにいる。
浮上しかけた疑問を、私は気づかなかったことにしたのだった。
「さて、再開しましょう」
「ええ、お願い」
そう答えて頷くと、フィレスが開いた本を指さす。
「先ほど少し話したとおり、これが魔法陣で、こちらに細かく説明されているものが魔法陣を構成する要素です。まずは、あなたはこれらを理解しなくてはいけません」
やはり、魔法というものは一朝一夕というわけにはいかないようだ。
「これらは何を意味するの?」
今フィレスが指をさしている、文字や数字、記号を見て、彼に質問した。
「これは、組み合わせることによって、魔法の内容……例えば魔法の属性、火とか水とかですね。それを指定します。そして、方向性や威力、大きさ、範囲などが決まるのです」
「これを暗記すれば、魔法が使えるようになるの?」
それにしても複雑だ、と思いながら例示されている魔法陣を眺めた。
「そうですね、基本はそうです。ただし、魔法陣に加えて、想いの強さ、イメージ力というものも結果として顕現する魔法に影響を与えます」
「想い、イメージ……」
「はい。ですから、魔法陣さえ覚えればなんでも発動できるというものでもないのです。その当人がイメージしにくい属性の魔法は使えなかったりします」
……え? それって、魔力もあって、魔法陣を覚えても使えないってことよね?
じゃあ、魔法の才がある、とフィレスに言われた私だって、『使う』ことはできないのかもしれないってこと⁉︎
それに衝撃を受けた。
だって私は、魔法を手がかりに生き抜く道を見出せないかと思っているのだから。
「そんなにがっかりしなくても大丈夫です。……顔色がよろしくないですよ」
動揺と不安が顔に出てしまっていたらしい。そんな私をフィレスが気遣ってくれた。
「私は、もしかしたら、どの属性も合わないかもしれないの? その可能性は……あるの?」
フィレスの纏う衣を握りしめて、私は彼に問う。
すると、フィレスは首を横に振った。
「人には心と想いがあります。こうあって欲しいとか、こうなりたいとか、望みというものもあります。それがあれば、相性の良い魔法というものが見つかるものです」
「……望み」
「そうです」
……私の望みは、生きること。
それに見合う属性や魔法ってあるのかしら?
私は、まだそれをイメージできずに、首を捻るのだった。
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