第3話 パレット

 目が覚めた。何か聞き出せそうだったのに..

 今日は退院しシェアハウスに移る日だ。そもそも俺に家族はいないのか。息子が事故にあって入院したのにお見舞いもないとは。そんなことを考えていると。

 

「おーすっ」


 朝からテンションの高い樹がやってきた。何やら紙袋をもっている。おもむろに何か聞いてみると服だと答える。退院しても外に出る服もないからな。待て、搬送されたときに着ていた服はどこいったんだ?まぁいいだろう。新しい服は気持ちがリセットされる気がするからな。

 

 退院の手続きをすませ外に出た。久しぶりに外の空気は心地いいな。白黒の世界は殺風景でつまらない。ビルが並ぶこの大通りは不思議とレトロな雰囲気も感じる。すると、樹は


 「よっしゃ!行くか。ついでにスーパーに行って買い出しにいこーぜ。今日はお前の退院祝いだ飲むぞー。」


 はしゃいでいる樹を横目に町を眺めていると頭が痛くなる。何か思い出しそうな気がする。二人でスーパーにつくと酒やお菓子を買った。総菜コーナーにつくと病院のご飯とは違い油の多い健康に悪そうなものばかり。実に美味そうだ。樹はたことたこ焼き粉を買っていたのでたこ焼きパーティーをするのだろう。レジのかごいっぱいに粉が入っている。流石に買いすぎなんじゃないか。樹と二人でお菓子を選んでいると。


 「湊か?」


 急に後ろから話しかけられた。振り返ると俺よりかなり大柄の男性がいた。すると樹が


 「お、悠斗ゆうとじゃん。お前の好きなつまみも買っとくぞ。」


 「マジ?助かる。」


 こいつもシェアハウスの同居人なのか。スポーツマンのようながっしりとした体つきで、黒縁の眼鏡をかけている。目つきも鋭く、怖いという印象しかない。こいつも俺を知っている様子だ。


 「湊退院おめでとう。見舞いに行けなくてすまなかった。健康そうで良かった。」 


 「彼女も見舞いに来てたのか?」


  彼女?...俺にそんな人いたのか。前の俺ナイスだ。慌てたように樹が訂正する。


 「こいつ実は記憶がないんだ。」

 

 「記憶がないのか!?それはすまなかった。」


 申し訳なそうに目を細めている。本当に知らなかったのだろう。樹もシェアハウスする人にはちゃんと伝えておくべきだと思うんだが。かごに入れたものをレジに通してシェアハウスに向かうことになった。



 駅から歩いて15分のところにシェアハウスはあった。築15年と聞いていたが案外きれいで、周りにはコンビニもある。住みよさそうな立地だ。家賃はいらないらしい。使わなくなった物件で自分たちでリフォームして住むことにしたそうだ。

立案者は芽衣だったらしい。意外だなと思った。彼女とは少ししか話したことはないが、積極的にことを動かそうとする人にはみえない。みんながそうするならと、集団の意見に合わせて行動するような人に感じたが。


 シェアハウスの中もきれいで1人1人の部屋もあるらしい。すごいな。


 「まだ誰も帰ってきてないな。パーティーの準備始めるか。湊は久しぶりの外だし疲れたろ。風呂でも先に入ってこい。」


 と意気揚々と樹が準備を始める。悠斗も買ってきた食材や酒を冷蔵庫にいれていく。俺も何か手伝おうとしたんだけどな。ハブられた気がしたが、家のことよく知らない俺が手伝おうとしても、ただ邪魔になるだろうと考え風呂に入ることにした。


 風呂に入るとつい考え事をしてしまう。今日悠斗が言っていた彼女とは誰なのだろうか。連日夢に出てくる女もだれか分からない。考えすぎるとのぼせてしまうしな。

風呂から出ると寝巻がおいてあった。誰かが用意してくれたのだろう。隣の部屋から楽しそうにはなしている声が聞こえる。他の人とも初めて会うし楽しみだ。


 さあパーティーのはじまりだ。


 



 


 



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る