第2話 モノクロな世界


 目が覚めると病院の天井だった。俺はある事故で記憶をなくし色が見れなくなったらしい。昨日は樹がお見舞いに来たり、精密検査をして疲れたな。目を開くと昨日の真っ白な世界から黒が追加され、白黒テレビを見ているような感覚に近い。

 

 昨晩見た夢は何だったのだろうか。どこかで見たような気かするんだけどな。

昨日は九月の割には蒸し暑かったが、今日は窓を開ければ心地よい風が吹いてくる。

夏から秋への季節の変わり目は何か趣を感じる。


 ちょうど一時ごろ樹がお見舞いにやってきた。隣には背丈が高めで髪がロングの女が並んで入ってきた。樹によると金髪らしい。俺にはわからないが。

すると女が鈴のように涼しい小さな声で


「私、小林芽衣こばやしめい。記憶なくしちゃったんだよね。一応近所に住んでて、いわいる幼馴染なんだ。」


 白黒で見ているせいかすごく清楚でおとなしそうな人に見える。金髪にしているとは考えにくい。目は一重、いや奥二重だろうか、鼻は高くきれいな顔立ちをしている。隣にいる樹はにやけ顔でこちらを見ている。俺がもう目が見えることも知らずに間抜けな顔をしている。表情豊かな奴なんだなと思っていると。彼女は話題を切り出す。

 

みなと君って目が見えてないんだよね。」


というのは俺の名前だろうか。俺は楠湊か二文字で楽だな。いやいや下の名前を知れたのは大事なことだろ。そんなことより、きちんと二人に黒が追加され白黒テレビ状態であることを伝えた。二人は大いに喜んでいた。樹に関しては声の出しすぎで病院のナースに怒られていた。彼は少しアホな部分があるのだろう。

樹はコホンと咳払いし一呼吸おいて話し始めた。


「あと明日で湊が退院てことで色々考えたんだけど。みんなでシェアハウスすることにします。」


 は?シェアハウス?全く状況が読み込めない。え、てかあと三日で退院なの?聞いてないんだけど。ナースさんしっかり教えておいてくれよ。いやまて、午前中に退院が何とかっていってたの俺の話か!自分のことじゃないと思っていた。俺も案外抜けているとこがあるな。


「シェアハウスってなんだよ他に誰が住むんだ?」


「ここにいる三人以外にあと三人いるぞ。」


「え?小林さんも一緒に住むのか?」


「うん、あと小林さんじゃなくて芽衣って呼んでほしいな。前もそう呼んでたし」


「あ、うん、分かった。シェアハウスに住むのは決定なのか」


 すると決め顔で当たり前だと言って半ば強引にシェアハウスに住むことが決まった。小林さんって意外と距離詰めてくるな。あ、芽衣かほんとに呼んでいたのだろうか。樹も多分俺のことを考えてくれたんだろうけど、強引すぎやしないか。


 樹のことも大分わかってきたな。男の割には小柄で目も大きく顔も小さい。所謂、童顔というやつだ。小柄のわりに意外と力があるのかな。俺を病院まで運んできたって聞いたし。


あれ?...


 そんなことよりシェアハウスにはどんな奴がくるのだろうか。シェアハウスにいる人間は樹によると全員俺の知人らしい。楽しみだな記憶を呼び覚ますいいきっかけになるといいな。彼らと仲が良かった過去を早く取り戻したいな。疲れたので二人を家に帰して自分は少し早いが眠りについた。




◇◇◇




 また花畑が広がっている。また花を持った女性が立っていた。手にはアサガオを持っているようだった。


 「幸せになってってどういう意味だよ。君は誰なんだい?」


 「.....」


  彼女は何も答えない。


 「おい!何とか言えよ!おい!」


 「.....」


彼女は何も答えない。ただ泣いているだけだった。

 彼女の口が開いた瞬間目が覚めた。

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