第六話

 ただ、いま、わたしとパーティーメンバーたちは。"ストーリーテラー"たちが集まる中央広場に来ています。ぁ、云い忘れてましてね、ストーリーテラーとは。話のじょうずな人や話の筋運びが上手く読者をひきつける魅力的な作品を書くことのできる小説家。

(わたしのことです。…………調子に乗りました)

 ではありませんのであしからず。

 冒険に関しての情報屋のことです。

 いろいろな情報を冒険者たちから購入し、それを別の冒険者に売ることを商売している人たちのことをいいます。

(情報はお金で買う時代なのです、よ)

 ――疑問があると。

 情報を購入する必要あるのか? 冒険者って組合に入っているのだから、そこから情報を入手すればいいのでは? と思われた方。あなたのその考え方、正しいです。

 本来ならば冒険者組合から依頼(情報)を提供してもらい、仕事をするのが一番いい方法なのですが。冒険者組合の依頼は調査部が監査し、問題ない(危険ではないとは言っていない、けど、誤情報でないと確認できている)と判断したモノが公開掲示されているのです。ということは、信頼に値する価値のある情報で、ある、ことを保証しています。と、なれば必然的に冒険者どうしの取り合いになります。

(だって、みんな命、大事ですから。安全マージンは、あれば、あるだけに、こしたことないです)

 そのために溢れちゃうんです、溢れちゃうとは――仕事にありつけなくなるということ。

 そこで、情報屋という生業が生まれたんですね。

 ジャガーが言うには、

「ニッチ産業、だな」

 って、言ってました。

 たしか、お菓子とかで使われる香辛料だよね。ミントのような香り近いけど、ちょっとだけツンと鼻をつくけど爽やかな香りで、少し辛みがある特徴の? と、わたしが尋ねると。

「それは、ニッキ。ニッチ産業とは隙間産業と言って。潜在的需要を掘り起こす産業のことだ」、

 そうです。

(勉強になります。はい、いろいろと)



「きいたぞ、聞いたぞ! 相変わらずお前さんたちが冒険すると。簡単な依頼でも、ハチャメチャになるな」


 たまーによく見かける広場で街宣活動している人たちよりも、大きくよく響き渡る声で呼び掛けてきている人が。

 この町でストリーテラー(情報屋)をしている一人、"クロード"さんです。

 巨大スライムと死闘することになる情報を売った人です。

(イラッとしたので、語弊のある言い方をしてしまった)

 クロードさんから購入した情報は。

『この頃、近くの森でスライムをよく見かける』、という内容でした。が、出会ってビックリの特大サイズでした。

 わたしたち冒険すると。いつも――へんちくりんな冒険譚になるんですよ。冒険者の人たちからは、お前たちはアンラッキーでラッキーな女神さまに好かれていて羨ましいと言われます。

(わたしとしては物書きの神さまに……好かれたい…………)



「こっちは、巨大スライムのご飯になるところだったんだぞ! 笑いごとじゃーねー!」


 リュドがクロードさんに飛びかかろうとしているところを後ろから、エンリが羽交い締めにして止めていた。エンリとリュドは幼なじみ。ただ、エンリの方がリュドよりも、頭を一つ身長が高く体格が一回り大きい。前衛で身一つで仲間を護りながら闘う戦士ウォーリアーをしています。

(戦い終えたエンリは、擦り傷に打撲と痛々しい姿で。大丈夫、俺、頑丈だからと白い歯を見せ爽やかスマイル。カッコイイぞ、エンリ!)

 羽交い締めにされているリュドは、財宝発掘屋トレジャーハンターです。斥候せっこうや鍵開け、さらに罠の解除などをしてくれています。

(性格は、おちゃらけていますが。仕事内容は、キッチリ、カッチリ、職人肌!)

 リュドのことなんですけど。ちいと困るっていることがあるんですよね、私的なことなんですけど。小さいころから足音を消して歩くことを徹底的に仕込まれて。雀のお宿の傷んでいる床を歩いても、軋む音一つ出しません。そのため、わたしとよく曲がり角で、ぶつかるんですよ、ね。

 ジャガーも、リュド同様に軋む音一つ出すことなく歩くんですが。曲がり角で、ぶつかったことないんですよ、ねぇー。なぜかしらと気になって? ジャガーに質問したら。

「男心が理解できない、鈍感乙女を相手にしないといけない。リュドに同情するよ」

 と、ニヒリスティック面持ちで言ってました。

(わたし、リュドに悪いことしてる?)



「チィチィチィ。お客さん、変な難癖つけもらっては困ります、ぜ」


 "ゴシップ"とデカデカと書かれた看板を取り付けたホロ馬車に、体をあずけ。格好つけながら、なかなかの言いっぷり。が、また、似合うのだ。この男――けっこうハンサムな、だけ、に。

(クロードさんの言う通りで、情報は正確だった。わたしたちが、最初見つけたスライムは通常サイズの一匹だけだったのである。逃げ足が速いので森中、皆で追い回していたら……デッカイスライムの目の前に飛び出していたんだな、これが…………。アハ!)


「クロード。こいつら全員生きて帰れて、実入りの多い出物はあるか?」

「ジャガーの旦那…………。こう言っちゃ悪いんだが、実入りは別としてだな。スライムの件は、できるだけ安全な出物を売ったと、俺は思っているんだが」

「クロード、お前を責めているわけではない。お前の情報屋ストリーテラーとしての能力は、高く評価している。が、こいつらのごたごたをよく起こす達人トラブルメーカーとしての能力も高く、評価している」

「…………、…………」

 光がかき消えた瞳で、わたしたちを見て。深い、深い、ため息をついた。

(失礼な! わたしたち、が好きでトラブルを起こしているわけじゃなくて! トラブルが向こうから、勝手にやって来るだけ、だ――もん!)

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