最終話
「戻ってきた。わかった? なにか」
「…信じきれていないけど…聞きたいことが山ほどある」
「何? 答える」
一応答えてくれるらしいけど…。それは質問を聞く前で聞いた瞬間「答えられない」とかいいそう…出雲なら。
「…君は神様なの?」
まずは確信に変えたい、出雲がここの神社に祀られている神であることを…。
「うん、私、神様」
…否定をしなく、肯定した…つまり本当に縁結びの神であるということ。
「それなら…どうして神様である君が愛を壊そうとするの? いや…言い方が若干違う。どうして縁結びの神である君が縁切りなんてことを僕に提案してくるの? 縁結びの神がする行動とは思えない」
いちばん重要な質問、縁結びなのに縁切りを僕にさせようとしている。どうして? そこまで縁切りにそこまでこだわる理由は?
「縁切り、しないと、だめ。だって、様々な人間、不幸、なってる」
「縁結びが人間を不幸にしている? でも巻物はそんなこと一切書かれていなかった」
「感謝、ばかり、されてた。願った、人、感謝」
感謝されているというのなら別に不幸になっているというわけではないと思うんだけど。だから縁切りを頼む必要性なんて…。
「でも、それは、願った人、だけ」
「…どういうこと?」
「…永遠、縛る。永久に、その人と結ばれる」
…幸せになっているようにしか聞こえない。どうなったら不幸になるの?
「…教える、全部。それで、錠前、壊して」
________そして、私、殺して
「っ!? なんで君を…!」
いきなり私を殺してなんて…というか話の脈絡がなさすぎる! いきなり過ぎてそんなのできる訳がない! いやするわけがないんだけど!
「私、人間、不幸に、する。だから、生きてちゃ、だめ」
不幸にするから生きていてはだめって…飛躍しすぎでしょ!? 実際力なんて使わなければ…不幸にしないのに…!
「私、神。力、無意識、使う。止められない」
「…そもそもどうして今の話が不幸に繋がるというの!?」
「教える。この、神社、愛の誓い、じゃない」
愛の誓いじゃない…縁結びの神社であることはわかっているけど…。僕は…さっきの伝承を見て明らかに愛の誓いにしか見えない。
「…これから、この神社の話、この神社での縁結びの仕組みの話、する」
「…わかったよ」
一体…どんな話なのだろうか。縁結びの神がそこまでして縁切りを僕にしてと頼むほどの事がこの話の中にあるのだろうか。
・・・
ある日、一人の男、神社、来た。
結ばれたい、願い、叶えるために。
神様、見てた、ただ、見てた。
錠前、名前、男の名前、結ばれたい相手、名前。
名前、書かれた錠前、蔦に、引っ掛けた。
かけた、永遠、結ばれたいから。
相手、男、結ばれた、神様、無意識の力。
神様、望んでない、幸せじゃない。
男、幸せになった、けど相手、幸せじゃない。
なんでか、理由は。
___強制、縁結び。
強制的な、縁結び、お互い、認めていない。
一方的な、縁結び、相手、結ばれたくない人と結ばれた。
相手、洗脳、抗えない。
神様の力、誰も抗えない。
錠前、朽ちることない、永遠、結ばれる。
生涯、結ばれる。
神様、人間、幸せ、望む。
でも、神様、自分の力、嫌い。
不幸、呼ぶ、自分の力。
制御、できない、錠前、かけた瞬間、発動してしまう。
神様、どうすることもできない。
この世界、外側、みんなみんな、神様の力、結ばれてる。
必要なくなった、でも、必要になれば、また、来る。
だから、また、不幸、生む。
生まないために、元凶、殺す。
…神様、殺す。
だから…私、殺して。
・・・
「…」
…あの伝承を悪い方向に解釈したらたしかにそうなる。 いい方向に僕は見すぎていたの?
この世界はこの神様の影響で結ばれたい相手と強制的に結ばれる事ができる世界。…お互いが愛し合えていない状態で。もしかしたらお互い愛し合えている人間もいるのかもしれない。でもそれでも結ばれたくない相手と永遠に結ばれる人達がいる。…だからこの子は錠前を壊し…そして自分をも殺してと頼んでいたんだ。
「…でも、どうして僕に?」
「掛け軸」
「え?」
「掛け軸、鋏くん、描いてた」
…まさか…掛け軸に赤い鋏が描かれていた…。
「道具、魂、宿す。鋏くん…付喪神」
…付喪神、道具に神や精霊が宿ったもの。別名「道具の神」。100年が過ぎると宿ると言われている…。そっか…僕は本当に「鋏くん」だったんだ。
「神場、鋏、名前」
…神場というのは鋏の名前だった。出雲が使っていたというより持っていた赤い鋏の名前。縁切りに使うとされた秘宝、しかし使うことがなかった代物。
「怖かった、切ると、みんな、来なくなるんじゃないかって。でも、来なければよかった。切れば、よかった。神社、不幸、する」
…僕が付喪神として顕現しているということは最低でも100年耐えていたということ。100年みんなが不幸になるところを見ていることしか出来なかった悔しさ。…どんなに辛いものなのかは僕にはわからない。一緒にいたはずの僕でもわからない。
…あぁ、分かるはずないか、だって僕「道具」だから。「生命」の気持ちなんて分かるはずがないよね。だからみんなが結ばれたと思ったときも僕は感情が湧かなかったんだ。
「…君の願いを叶えるよ」
もう誰も不幸にしたくないという願いを叶えるために。そして「道具」の役目は「持ち主」に忠実に動くこと。「道具」は「持ち主」には逆らえないのだから。…「持ち主」である君が願うこと、それを叶えるのが「道具」…だから僕は…。
_____全ての錠前と…君を…殺してあげる。
「…」
出雲はニコッと笑顔を見せた。そして僕は…幼い少女の体つきをした出雲に…。鋏を突き刺した、赤い鋏であるから返り血なんてわからない。服装ももともと黒いから染められない、出雲の血で。「持ち主」の血で。
「…ありが…とう。やっと…死ねる…」
そういい出雲は消えていった。神は消滅したけど…最後に錠前を切らなきゃ。出雲の力が残されていたら結局何も解決しないから。…念入りというやつだよ。
・・・
小さな滝の音が聞こえる。激しい音じゃなくて静かでまるで雨が降っているように
雨は悲しいイメージがある。まるで誰かが泣いているみたいで。
…滝は強制的に結ばれていった人たちの涙を象徴しているのかもしれない。滝なのに激しくなく、静かに水面に落ちていく。…涙を拭うように、永遠を断ち切るために。
縁切りの力を持つ赤い鋏の付喪神…持ち主である出雲の願いを叶えるために。
「君たちの愛を壊させてもらうよ」
僕はそういう「道具」だからね。
…
…
…一つ一つ錠前を壊していく。そして全ての錠前を壊し、狐の嫁入りが降った。晴れはようやく解放される「喜びの感情」。雨は自分の誓った愛が壊されることへの「悲しみの感情」。僕は愛が壊される痛みなんて知らない、だって僕は「道具」なんだから。本当に解放されたのかは分からないけど…。
「道具」だから「持ち主」の命令は絶対。だけど「道具」は「持ち主」がいなければ何もすることが出来ない。「道具」である僕は…永遠に「持ち主」の願いを守り続ける。…付喪神である僕は…「道具」である僕には…。命なんてないから。
「持ち主」の願い…それは人間を不幸にする自分のちからをなくすために自分を殺してほしい…。…だけどまだ分からない。まだ効力が残っていてまた同じことを繰り返すのなら、僕は「持ち主」の願いは叶えられたという事実を守るためにずっとここにいよう。そしてまた強制縁結びがされたら僕は愛を切るだけ。僕は付喪神。寿命はない。…だから。
_____僕は望んで君が嫌いな永遠を受け入れよう…持ち主、出雲。
愛を壊す鋏 岡山ユカ @suiren-calm
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