第3話

「鋏くん、戻ってきた!」

 出雲はいい笑顔で僕を迎えている。普通の女の子っぽいけど数々の発言が異端な子というのを物語っているせいで、とても不気味で普通の女の子には見えない。笑顔だけは普通の女の子っぽい笑顔だけど。

「わかった? なにか」

「…何も分からなかったけど…そもそも君はどうして僕に散策してなんて頼んだの?  少し変わった伝統というか風習というか…不思議な伝承を持っている神社なのは理解したけどそれ以外は普通の神社っぽいんだけど…」

 錠前神社だから錠前をつけて愛を誓うなんて結構不思議な神の伝承がある。それぐらいで何もこの神社から感情が湧かない。だってそれだけしか気になることがないから。

「鋏くん、錠前、鍵ない」

「うん、それは知っているよ。…それがなにか?」

「外せない、錠前。とても、私、困る」

「でもあれは愛の誓いなんだよね? 外したらバチが当たるよ」

「当たらない。神様、困る」

 この子はなぜそんなことが断言できるの? そもそもあれは永遠に結ばれると信じて来てくれた参拝客の思いなんだから。外さないほうが参拝客の信用が維持できると思うんだけど。それなのにどうして外そうとするの? どうして参拝客を遠ざけるようなことを…。

「外して、困る」

「そもそも勝手に外すのはだめだよ。僕は神社の関係者じゃないんだから勝手に外したら怒られるよ」

「怒られない」

「どうして君は僕に錠前を外してほしいと頼むの? あれは永遠の愛の象徴的モノだろう? …誰かが結ばれることが嫌いなの?」

「…嫌いじゃない、むしろ、好き。幸せ、結ばれる、好き。でも、永遠、嫌い」

 永遠が嫌い? …どういうことだ?

「永遠、縛る、嫌い、大嫌い」

 …縛る? 一体何を言っているんだ? この子は。そもそもこの子も関係者ではないはず…だから自分勝手に錠前を外すなんて…。

「お願い、外して、壊して」

 …外すから壊すに変わった、これは流石に神様が怒る。罰当たりなことを頼んでくるなぁ…この子。神様が黙ってはいないよ…こんなこと。

「…どうしても、壊す、だめ?」

「だめだよ。そもそも人の愛を壊すなんて…」

「…愛、違う」

「え?」

「ここ、愛、誓う場所じゃない。縁。縁結び、神社」

 あまり変わっていないように聞こえるけど…。愛と縁は結ばれるもの、少し違うとはいえ…ほぼ同じ意味だと思うんだけど。

「周辺、探索して。聖域じゃない、境内、探索して」

「…わかったよ」

 出雲の言う通り境内はまだ探索していない。…と言ってもなにもないと思うんだけどね、パット見怪しいものはないから。どこを探索すればいいのか全くわからないよ。…手水舎とか売店とか…そこあたりを探索して意味があるのかどうか分からないけど…探索してと言われたから無意味だと思うけど探索するか。

・・・

 手水舎は…水が出ていないなぁ。近くに滝があるというのにここには水が出ていないのかな? …神社としてあるの?そんなことって…。この神社、結構ボロボロだったから廃墟と化しているんじゃ…。

 薄々感じ取ってはいたけど…誰もいないし、神社への道もないから…。誰もいないのは夜中だからということで終わるけど。神社への道がないというのは不自然すぎたからなぁ…。苔が生えている…本当に長い間使われていないみたいだね。

「廃墟と化した神社…僕、無事に帰れるのかなぁ…」

 暗い森を突っ切っていくなんて無理難題にもほどがある。朝まで持つかな…体力。

「次見るとしたら、売店かな」

・・・

 …ホコリが溜まっている。お守りも全部かなりボロボロで古びている。長い間本当に誰も来なかった…ということかな。…ここに住んでいる神様は寂しそう…。奥にも部屋があるみたいだから、見てみようかな。

・・・

 …物置部屋みたい、なにかないかな…。ホコリがだいぶ溜まっていて喘息を引き起こしそうだけど我慢しよう。

「わっ!?」

 だいぶ散らかっていてなにか踏んで盛大に転んでしまった。凄いホコリが舞っている…思わず口と鼻を塞ぐ。

 だいぶ落ち着いてきた…どうやら踏んだのは巻物みたい。神様について書かれている巻物…これがここで祀られている神がどういう神なのか分かる。…まぁ十中八九縁結びを司る神だろうけどね。僕は巻物を読んでみることにした。

「この神社に祀られている縁結びの神、**様は繋がりを示すモノを聖域の蔦にかければ縁を結んでくれる慈悲深い神でこの世界で誰の愛も叶うようになったのも**様のおかげである。**様は**という鋏を持っており、縁切りに使うとされた秘宝であり付喪神という道具の神になる可能性を秘めている鋏です。しかし慈悲深い**様は**を使うことはありません。なので**様は縁結びの神とされているが本当は真なる愛を司る神としても参拝客から慕われている神でこの世界に平等な愛をもたらせるには**様のお力が必要不可欠とされるほど」

 …ピンポイントで祀られている神の名前が分からない。でも見た感じ…二文字ぐらいの名前なのかな? …二文字…? そういえば…出雲も二文字だっけ?

 …気のせい…かな? 見た目女の子だし…。まだなにかあるかもしれないから、とりあえず物置部屋を散策してみた。ホコリが舞うのは嫌だけど。

「あっ、掛け軸…え?」

 掛け軸に描かれていたのは間違いなく出雲だった。手には見たことのある赤いハサミを持っている。…やっぱり気のせいではなかったということ?

 つまり出雲はこの神社の神様…!? だからあのとき断言が出来たんだ…! バチは当たらないって…! だけど…なんで神様が愛を壊そうとしているんだ? それだけが分からない…。

「…出雲が…神様…それなら…一度戻って問いたださないと!」

 神様という事実がわかって聞きたいことが一気に増えた。未だに出雲が神様だということは信じきれていない。掛け軸の人物のことも似たような人物だって言い訳もできる。でもここの探索をしてって言ったのは出雲だから関係性がないとはいえない。早足で向かおう…出雲がいる場所へ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る