第12話:ムショ帰りの極道、女子高生に翻弄される

 家に帰ると同じ制服を着た女子高生が二人いた。

 

 ちなみに今日は休日。


 片方が制服姿なのはいつものことだが、どうしてもう片方も制服を着ている?そんなに着心地がいいのか?それとも流行りなのか?


「こんばんは。江里花えりかです」

「はぁ」


 唐突に自己紹介される。

 だからなんだ。

 こいつの友達か?なんで家にいる?遊びに来ただけか?こいつにも友達がいたのか。


 それよりなんで俺の顔を見て驚かない。あんな場面で出会ったんだぞ。つい先日のことなのにもう忘れたのか?


 状況が全く理解できない。早く説明してくれ!


「江里花がデザインを担当してくれます」


 なるほど?


「考えたブランド名とデザインの原案を説明して」


 なるほど?

 って、急すぎるわ!!なんで前もって知らせない!ゲリラ戦でもやってんのか!


「もしかしてまだ途中とか?あれだけ時間があったのに?」


 そんなになかっただろ。数日前の話じゃねぇか。

 「いや、途中ですけど?ターゲットとコンセプトしか考えてませんけど?」って言ってやりたい。


「はい、その通りです」


 まぁ所詮、現実なんてこんなもんですよ。言いたいことも言えない世の中なんですよ。

 

 いつも通り、深いため息と冷たい視線がセットで提供される。

 いらんわそんなアンハッピーセット。


「分かった。考えたことだけでいいから説明して」


 こいつは友達の前でも通常運転なんだな。四匹ぐらい猫かぶってくれよ。


 とりあえずターゲットとコンセプトについて説明する。

 さて、何を言われるか。恐怖通り越してもはや楽しみだ。


「すてきね、そのコンセプト」


 あっ、君が感想言ってくれるんだ。お褒めの言葉をありがとう。

 

 いきなり口を開いたかと思うと、鞄の中からスケッチブックを取り出して書き始める。


「イメージはこんな感じ?」


 見せてくれたそれはデザイン案で、数分しか経っていないのに三種類も書いてある。そのどれもが「あっ、これだ」と思った。


「イメージ通りみたい」

「フフッ、よかった」

「ロゴは後日でもいい?」

「もちろん」

「じゃあ、それでよろしく」

「了解。お邪魔しました」

 

 深々とお辞儀をして出て行った。

 礼儀正しい子だ。ちょっと不思議ちゃんが入っていたが。

 

「で、あの子は誰?」

「ハァ?さっき言いましたけど?」

「うん、言ってたね。聞こえてたよ」


 分かる分かる。イライラするよね。導火線クソ短いもんね。

 でもね、オジサン何一つ状況を把握できていないんだよ。


「数日前に「ストップ!」


 あの子との出会いから説明しようとしたが止められる。


「過程はいらない。時間の無駄。聞きたいことはなに?」


 この腹立つ話し方はたぶん俺にしかしてない。あの子とは普通に会話していた。


 薄々感じていたが、できれば性格ってことにしたかったが、やっぱりこいつは俺のことが嫌いなんだな。


「いや、もういい」


 あの子はこいつの友達でデザイナー。それだけ分かれば充分だ。

 

 さて、配信の準備をしないと。

 今日はデザインの打ち合わせをしたことについて話そう。裏側的な話は喜ばれるからな。




 あの日以来、元々少なかったあいつとの会話はゼロになった。

 それでも日常に支障はない。問題一つ起こらない。

 たぶんあいつが突然消えても俺の日常は何も変わらないんだろうな。


 誰もいないコンビニの店内で、ここ最近の日常を思い浮かべる。


 いかんいかん。まだ仕事中だ。しっかりしろ。

 あっ、客が来た。


「こんばんは」

「……いらっしゃいませ」


 この子の頭にはメモリー機能が備わってないんだろうか。

 なんでまたこんな時間に出歩いている。


「今日は一人じゃないですよ」


 指差す先を見てみると外に黒塗りの外車が停まっている。後部座席の窓にはスモークフィルムが貼ってあった。

 俺も昔はあんな車に乗ってたな。


「そうか。なら良かった」


 これ以上この子と話すことはない。煙草の補充でもしよう。


「二人は仲良しなんだね。安心した」


 背中に投げつけられた言葉に手が止まる。


 不思議ちゃんだけじゃなくて天然と電波も入ってるな。

 あの言い方を聞いてどうしてそう思える。


 ……ちょっと待て、おかしいぞ。に言うことか?

 事情を全部知っている?いや、あいつが身の上話をペラペラしゃべるはずがない。


「残りの時間を大切にしてね」


 何を言いたいのかさっぱり分からない。


 引き止めようとしたが、もう車に乗り込んでいた。

 さすがにこれ以上は追いかけられない。


 店の中に戻ろうと踵を返した時、リアガラスが視界に入った。


 俺は目を疑った。

 全身の力が抜けて、その場に尻をつく。


 あり得ない。あるはずがない。


 どうしてあの代紋が、組の代紋が、あの車に刻まれているんだ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る