第2話:ムショ帰りの極道、女子高生から見下される
女子高生にいきなり「クッキー屋さんになれ」と言われて「はい、なります」と言える元極道がこの世界にどれだけいるだろう。少なくとも俺は無理だ。
くわしい説明を求めたが「今日はもう寝る」と言ってその場で寝た。
猫か。せめて制服ぐらい着替えろ。
というかどうしてこいつは土曜日なのに制服を着ているんだ。他に服を持っていないのか?
そういえば、住むつもりで来たわりにリュックサックしか持ってきていない。
気になることが多すぎるが、とりあえずシャワーを浴びて俺も寝よう。今日はもう疲れた。
翌朝、俺は叩き起こされた。
「いつまで寝てるわけ?さっさと起きて」
ここは俺の家だよな。こいつは居候だよな。立場が逆じゃないのか。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、たぶんこいつの方が俺よりも弁が立つ。
朝から無駄な時間も労力も使いたくなかったので大人しく従うことにした。
「今から今後の計画について説明します。質問は最後にまとめてして」
こいつはこういう言い方しかできないんだろうか。こんなの絶対に学校で嫌われてるだろ。
「まともな会社に雇ってもらえないあんたは、自分でビジネスをはじめて金を稼ぐしか道がない」
それは自分でも考えたことはあるが早々に諦めた。一般社会で働いた経験もギリ中卒で学歴もない自分にできることが思い浮かばなかったからだ。
「運の良いことに、あんたはあんたにしかない武器を持ってる。それも今の時代にピッタリな。それを利用しない手はない」
俺の武器?
「刑務所から出てきた元極道が社会の底辺から成り上がる。こんなフィクションみたいなストーリー、あんたにしか描けないよ」
「小説家にでもなるのか?文章なんて書いたことないぞ」
「クソさむいギャグで話の腰を折らないでくれません?」
虫けらでも見るような目で睨まれる。地味に傷つく。
「要するに、元極道のサクセスストーリーを商品にして金を稼ぐってこと」
分かるような分からないような説明だ。
「このまま説明し続けても理解できなさそうなので、質問がありましたらどうぞ」
本当に腹が立つ。図星だからよけいにムカつく。
「そもそもどうしてクッキー屋なんだ」
俺のサクセスストーリー(になるかは分からないが)を商品にするなら、なにもクッキーじゃなくていいはずだ。
「元極道が作るお菓子ってだけで興味を引けるから。クッキーにしたのはコスパがいいのと通販に向いているから。通販にするのは店舗を持てないから。はい、他に質問は」
全部理由がしっかりしている。昨日今日で考えついたこととは思えない。
「その、サクセスストーリーを売る方法なのだが」
「今の時代には、無料で誰でも使えるSNSというものがあるのはご存知ですか?」
「そのくらい知っている。TwitterとかYouTubeだな」
「よくご存知で!さすが!すごい!」
パチパチと大袈裟に手を叩いているが、思いっきり馬鹿にされている。
頭がいいと性格もねじ曲がるんだろうか。おっと、世間の天才たちに失礼だったな。
「あんたでも知ってるそれらを使って、クッキー屋を開くまでの
全然イメージできない。できる気がしない。SNSを触ったことがないどころか、スマートフォンもパソコンも持ってない。大丈夫なんだろうか。
「とにかく、あんたがすべきことはクッキーの練習だけ。他は私がするから心配する必要なし。はい、じゃあ次の説明!」
まだ説明が続くのか。少し休憩がほしい。
だがそんな俺のことなどお構いなしに説明をはじめる。鬼だな、こいつは。
「ビジネスをはじめるには資金が必要です。最低でも100万。そこで、あんたには深夜のコンビニで週40時間バイトをしてもらいます」
「ちょっと待て、コンビニでバイトなんて無理だ。履歴書出しただけで断られるぞ」
「そんなことぐらい知ってます。バカにしてるんですか」
どっちがだ!そんな目で俺を見るな!
「私が今バイトしてるコンビニを紹介します。ちょうど深夜帯のバイトを探してるんです。ガラの悪い連中が来ても逃げ出さないような人をね」
なんだその、これ以上ないぐらい俺にピッタリな条件は。俺しかいないだろ。
「オーナーには話を通しておきました。今から履歴書持って面接に行きますよ」
コンビニでバイトできれば安定した生活を送ることができる!
クッキーの練習なんてしなくていいし、こいつを追い出せる!
馬鹿め!いくら頭と口が回ってもまだまだ子どもだな!
「ちなみに、あんたを採用する条件は私がそこでバイトを続けることなので。それをお忘れなく」
抜け目なさすぎるだろ。
やっぱりこいつは鬼だ。鬼の子だ、絶対に俺の子じゃない!
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