雪の眩しさを知った日に
朝、窓から外を見ると雪が積もっていた。もう子どもという歳でもないのはわかっているが、それでも少し心が躍る。
マフラーと手袋、厚手の上着を着て外に出る。家の前では、雫が空を見上げていた。
「おはよう」
「おはよう、
「桜庭こそ、こんな時間に外で何してんだ」
「雪が積もっていたから外に出てみただけよ」
そう言いながら、雫は足元の雪で小さな雪玉を作った。
「あそこまで転がしてみるわ」
「頑張れ」
雫が指差した場所は、高台。長い階段があるので些か難しい気がしないでもないが、雫は既に転がし始めている。
雫の隣を黙って歩く。雪に夢中になっているのが少し可愛らしくて、微笑ましい。
「どうして着いてくるの?」
「えっ? ああ、いや。そんな感じの流れじゃなかったか?」
「そう……?」
「嫌ならやめとく」
「別に、嫌とまでは言ってないわ」
一応ではあるが、許可を得たので着いていく。
この寒い中で、雫は素手で雪玉を転がしている。防寒を何もしていないので、自分が着けていたマフラーを雫の首に巻く。
一瞬だけ驚いたように飛び上がった雫は、恨めしそうに俺のことを睨んでいた。
「急に何をするの……」
「ごめん、寒そうだったから」
「ああ……そういうこと。ありがとう」
再び雪玉を転がす。それなりに大きくなった雪玉を表情にこそ出さないが楽しそうにしている。
長い階段には雪が積もっていた。坂なのか階段なのかわからないくらいに積もっているため、雪玉を転がすのも簡単だった。
「手伝おうか?」
「いい」
「そっか」
雪玉は大きくなる。雫の表情が、だんだん明るくなる。
「桜庭は……」
「なに?」
「いや、なんでもない」
「そう」
高台に着いた頃には、雪玉は俺たちと同じくらいに大きくなっていた。そこから見下ろした街は綺麗な銀世界で、いつもとは違う景色に少しだけ感動する。
「綺麗ね」
「そうだな」
「ここまで転がしてきたけれど、この雪玉どうしようかしら」
「雪だるま、作るか」
「そうね」
二人で雪玉をもう一つ作る。その雪玉を雫が転がしてきた大きな雪玉の上に乗せる。
「不恰好ね」
「だな」
出来上がったのは、上の方がかなり小さい雪だるま。というより、下が大きすぎたのだろう。
そんな不格好な雪だるまに顔やら腕やらを着けて、なんとなくそれっぽくしてみる。
「やっぱり、不恰好」
「大きさって大事だな」
「そうね」
不恰好な雪だるまを二人で見つめる。どれだけ見ても、そのバランスの悪さは変わったりしない。
「如月くんといると、なんだか落ち着くわね」
「そっか」
「……如月くんはそうでもないのかしら」
「俺もそうだよ、桜庭」
そう伝えると、少しだけ頬を緩ませる。
「帰りましょうか」
「そうだな」
今日もまた、長い階段を下る。なにか特別なことをするわけではなく、ただ二人でなんでもないことを話して、それだけ。今日は雪が降っていたからこんなことをしただけだ。
けれど、きっと。それももう今日で最後だ。
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