兄弟

「今日も、ずっとここにいるんだよ。外に出ちゃだめだよ」

 兄はそう言って、小屋を出ていった。僕は手持ち無沙汰になって、手近にあったおもちゃの汽車を動かした。

「ふぁんふぁん。汽車が通りまーす」

 僕は手を止める。兄がいつもどこへ行き、何をしているのか僕は知らない。一度着いていこうとしたら、怖い顔で止められた。僕は耳をそばだてる。遠くで鳥が鳴いている。それと、何かの叫び声。しばらくして、兄が帰ってきた。

「ただいま。今日もいい子で留守番できたな」

 頭を撫でてくれる。僕は気持ちよくなって笑った。えらいでしょ。兄はまた出ていった。手に肉塊を持っている。

「今日も肉団子スープだぞう」

「やったー!」

 僕は飛び跳ねる。肉団子スープは僕の大好物なんだ。そう知っていて、兄はよくそれを作ってくれる。手際よく肉を捌いていく兄の手元を背伸びして見ながら、僕は兄の表情を見た。見つめ返す兄の瞳は笑っていた。

「お前は本当にこの料理が好きだな」

「だっておいしーんだもん。お兄ちゃんの味付けも最高だし」

「肉は高いんだぞう」

「えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」

 僕は知っている。本当は買った肉じゃないこと。ある日こっそりついていった時、兄が何をしているのかを知った。山奥だから、人は遭難者として行方不明者を処理する。だから、まさか人間に襲われただなんて考えもしない。同族殺しに手を染めたお兄ちゃんは、僕に綺麗な笑顔だけを見せる。族に襲われた兄を庇って人を殺した僕を、兄はこの森の奥に匿った。そして、僕以上の罪を重ねてきた。もう僕らは、人里には戻れない。

 今日もまた、僕はお兄ちゃんに笑いかける。

「今日もおでかけするの?」

「そうだよ。お前はいい子で留守番してな」

 僕は何も知らない。兄は、僕が知っていることを知りながら、それでも隠している。こうやって、ずっと二人で生きていくことができたなら、他には何も望まない。遠くで銃声がした。

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