コスモスの庭を抜けて

 庭には、溢れんばかりのコスモスが咲いていた。少年は、母親にスプーンの持ち方を直されながら、窓の外を見ていた。見渡す限りのコスモス通り畑。細い一本道だけが伸びていた。少年はそこを歩いたことがなかった。家の中が、彼の全てだった。

 ある日、小さな少女がてくてくとその道をやってきた。手と足を一生懸命動かして。

「こんにちは。アオくんいますか」

 少年はぴょんと立ち上がった。

「ここだよ。ここにいるよ」

 母親は不在だった。少年は少女と一緒に、初めて細い道を歩いた。コスモスが頭を揺らす。

「ずっと君と遊びたいと思っていたんだ」

 少女は少年に笑いかけた。

彼と彼女の行く先に、幸せがあるかは分からない。だが、彼らは自由を手にしていた。それだけで、どこまでも行ける気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る