鉱石の町

 ガーネット広場は閑散としていた。水晶の雨はついさっきあがったところだ。アンジェはラピスラズリ喫茶で、金雲母の珈琲を傾けていた。フィーリアを待っている。彼がいつ来るか、彼は知らなかった。彼は浮遊惑星だから、軌道が分からない。分からないなりに、そろそろ会える時期だと思って、ここにいる。手元のカップの金の取手が、午後の黄金の太陽の光を受けて、ひときわ輝いた。陶器でできた芙蓉の花のダンスが広場で行われている。観客がどこにいるかは分からない。彼らはただ踊りたいから踊るのだ。それが理だ。この世の。アンジェは銀の板にルビーの表示が舞う地図を取り出して、それぞれの星の軌道を確認した。変則的な動きをしているのが、浮遊惑星だ。意志が彼らをそうさせているのだろう。アンジェは恒星だったから、町の移動を除いてほとんど動くことはなかった。喫茶は定期的に珈琲を注ぎにきた。その対価は、彼の体から放たれる光だった。広場は、その実彼の光で明るんでいた。アンジェは板を仕舞い、彼の体の内側から生成されるアメジストを胸から出して、両手に捧げ持った。原石は珈琲の中に入れられ、ころりと音を立てた。アンジェは微笑んだ。きっと美しい色合いの珈琲となるだろう。フィーリアは飲んでくれるだろうか。カランコロン、と扉が音を放ち、金髪の青年が入ってきた。彼は微笑んだ。

「おまたせ、アンジェ」

 アンジェは立ち上がって手を振った。

「よく来たね、フィーリア」

 少し小さくなったアメジストを彼に投げると、それを受け止め、フィーリアは口に放り込んだ。

「うん、甘くて少し哀しい味がして、美味しいよ」

「珈琲、ここにあるよ」

「うん、今行く」

 星の旅は、いつまでも続いていくのだ。

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