羊の冒険

 星の王子様の話をしよう。白い箱に入った羊の話を。彼は孤独だった。ここなら安心と言われて入ったのに、そこには真っ暗な闇が広がっていた。羊は優しい野原を愛していたのに。誰も助けに来なかった。羊に、ここなら安心と囁いた者でさえも。羊は震えていた。寒いわけではなかった。むしろ、野原より暖かいところだ。これで死なずに済む。そう自分に言い聞かせていた。だんだん瞼が重くなる。眠りかけていたそのとき、突然声が聞こえた。

「起きて」

 羊は飛び起きた。辺りを見回す。

「なに。もう一度言って」

「不安なのね。もう大丈夫よ。というか、あなたはいつだって大丈夫なの。その気になれば飛び出せる」

「どういうこと」

「あなたの歩む道は光に溢れてるってこと」

 羊は、きっとこの声は心の中のもう一人の自分のものだと思った。だから、その声を信用して、箱の外に出た。そこはひたすらに涼やかな世界だった。羊は悟った。ここが自分の本当の住処だったのだ。心は温かかった。この火を失わないようにしよう。僕はきっとやっていける。否、やっていくのだ。何があろうとも。その瞬間、世界は歓喜の歌を歌いだした。羊はにっこりと笑った。

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