新緑の夏

 カーテンの影が睫毛にひっかかって、夏が始まったことを知った。机に手をかけ、身体を起こす。テレビでは白い衣装を可憐にひらめかせて、少女の儚さと強さを、女性アイドルがダンスで表現しているところだった。窓の外は、ホワイトの配達用ロボットが、せわしなく行き交いしている。私はレース地のワンピースを着て、林檎を買いに街に出た。濃やかな光の粒子が、降り注ぐ。美しい未来のことを想いながら、私はスタスタと道路を歩く。多くの人々がのんびりと歩いている。歩調の優しさはあなたの鼓動に似ている。夢を夢だと知りながら、夢から出ない選択肢を取った。そのことに関して、私は誇りに思う。私の中の世界は、どうあろうと美しい。誰がなんと言おうと。私は私であるという、それだけで、生きていていい。当たり前だ。新しい朝を、私はそっと抱きしめた。 

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