淡い初恋

 僕はその当時、何も知らない少年だった。何も考えずに砂場で城を作っては壊し、作っては壊ししていた。それだけで楽しいのは子どもの特権だ。これを読んでいる君たちもそうだろう?

 その日僕は、砂場でせっせと基礎工事をしていた。そこにあっくんがやってきた。あっくんというのは、近所に住む大人びた同い年の少年だった。あっくんは爽やかに微笑むと、歳の割にはすらりとした腕を伸ばして、僕の髪に何かを差した。歳相応の俺は頭を振った。

「なんだよ」

「庭にコスモスが咲いたんだ。お母さんに断って少しとってきたんだ。君に似合うよ」

「はぁ」

 ぽかんとして間抜け顔で返したような気がする。あっくんはにこりと笑うと、軽やかに手を振って去っていった。

 首をかしげながらまた城を作っていると、しゅんぼうがやってきた。彼もまた近所に住んでいる、純朴な可愛らしい少年である。彼は僕の前に跪き、手を伸ばした。

「たぁくん。そのコスモスを僕にちょうだい」

「え、あぁ」

 俺は頭に手を伸ばしかけた。そこでなぜか手が止まった。

「これは」

「どうしたの?」

 しゅんぼうが首をかしげる。俺は彼の目を見れなくなって視線を反らした。

「……これはもらいものだから、だめだ」

「そっか〜」

 しゅんぼうはにこにこして、彼の母親の元へ行った。

 僕はコスモスにそっと触れた。その手触りは、今まで触れたことのない、夏の終わりの心地よい切なさを帯びていた。

 だから今でも、秋になると彼のことを思い出す。今と変わらず大人だったあの人のことを。

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