剃る

 僕は懐にナイフを忍ばせている。

 あいつには絶対負けない。いざというときはこれで刺してやる。

「たっちゃん」

「なんだ、洋平か」

 腰に伸ばしかけた手を降ろす。

「ねぇ、そこに何入れてるか知ってるよ」

「なんで」

「僕を刺し殺すためでしょう」

 え?何それ。

「そんな訳あるもんか」

「ならいいや。とにかく、そういうのは逆に不利になるから止めたほうがいい。もちろん人生規模の話」

「忠告ありがとう。でもそういうわけにはいかないな」

 ナイフを取り出し洋平の首元に振るう。

 奴は避けた。

「そんな簡単に嘘ついちゃだめだよ」

「なんで分かった」

「目つきが違ったから。昔から言ってるけど、俺はお前のことが好きだからね」

「ありがとう。俺はお前のことも俺のことも好きじゃないから死んでくれ」

「心中するつもりなんだね」

 ふわりと笑う洋平。

「はぁ?」

「憎いのはほんとは自分だけでしょう。俺を殺した後、意図通りに自分を許せなくなった君は自殺する」

「な……」

 俺はそんなことを……?

「無意識なんてどうでもいい。ありのままの君が好きだよ」

 真っ直ぐな瞳で見つめてくるから、

「……ごめん」

 観念して彼の肩に顔を埋めた。

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