星屑のほし

 星屑の星に滅亡が降る。

 逃げ惑う者、見とれる者、愛する人と手を繫ぐ者。

 カナリアという青年は、この日のためにとっておいたレモネードスカッシュをぐびぐび飲んでいた。

 「やっぱりうまいなぁ。こういう日だって変わらずうまいのすごいな。明日も飲みたいけど、そうもいかないよなぁ、わはは」

 カナリアには友人がいた。

「あいつ独り身だし電話してやるか」

 プルルルル……

「よぉ」

「おい!お前どこにいるんだ!」

「どこって、家だよ」

「逃げろ!」

「どこに?」

「……お前のことだからレモネードスカッシュでも飲んでゆったりしてるんだろ」

「まあね。そっちはどう?相変わらず元気?」

「元気だね!ある意味!興奮してるし!」

「そりゃよかった。こっちこない?楽しいよ」

「……行く」

「そうこなくちゃ。待ってるよ」


 友人はトビといった。

「まー綺麗だよな!そのうちでかいのが降ってくるぞ〜」

「そうだねぇわくわくするねぇ」

「怖くないのか?カナリア」

「そういう感情は母のお腹に置いてきたから。これ絵に描けたらなぁ」

「描けばいいじゃないか」

「うん。道具持ってくる」

 

 星降る庭で椅子二脚。片方絵を描き、片方ただほうけたように空を見上げている。


「最近やっとわかったよ。お前みたいな奴が冷静なんだって」

「そうかねぇ」

「大学時代、覚えてるか?お前授業中も絵を描いて怒られてた」

「絵を描いてたのは覚えてるけど、怒られたかなぁ」

「怒られてたぜ。まぁ怒る奴はなんだっていいけど。お前のこと、当時は筋金入りの馬鹿だと思ってたけど、何かに熱心に打ち込むことの大切さを感じる今となってみたら、お前は正気だったし、切実だったんだなってさ。」

「僕は色んなことに挑戦してた君のこと好きだよ。今も」

「今の俺のことは」

「好きだけど。なんか忙しそうだなとは思ってる」

「そうか」


 トビは伸びをした。

「やめだやめ。こんな日まで仕事ばかりするんじゃなかった」

「まーいーんじゃない。なんだって大丈夫だし」

「大丈夫じゃなくないか?」

「死んでも大丈夫だもの。そんなことより、おかわりいかが?」

「(死んでも大丈夫、か。)いただくよ。……うぉっと、それくらいで満足かな。ありがとう」

「いえいえ。……ねぇ、歌ってほしい」

「歌う?」

「そう。「星と少年」がいいな」

「結構前の流行歌か。いいぜ」

 トビは歌い出した。カナリアはそっと目を閉じた。

「星屑の星に星屑が降る日

 僕らは誰を愛するのだろう

 星屑の星に死が降る日

 僕らはどうやって抗うのだろう

 何一つだって持ってけやしない

 ただ一つだって自分のものになった時はなかった

 あぁ、美しき碧の星よ

 永遠なれ

 光満つまだ見ぬ世界へ  

 僕らははるか帰ってゆく」


「……何もかもが渋いね」

「まぁな。メロディも歌詞もリズムも」

「声もね。心の深みにね、沁みとおっていくんだ、君の声は。それこそ光満つまだ見ぬ世界へ通じる通路みたいに」

「……そんなこと言ってくれるのはお前だけさ」

 

 暖色の星屑が降る。この日を運命づけられた星は、静かにそれを迎え入れる。

「見て」

「来たな」

「おやすみ、世界」

「また後で会おう、カナリア」

「うん。それまで元気で」

「ああ。すぐ会えるさ」

「そうだといいね」


 二人は手を繋いだ。世界は燃え尽きた。新たな世界の創造のため。

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