第96話 ご褒美
俺たちは島を出た後、ルリとクラリカと分かれた。二人はテンノース山に戻るようである。
その後、俺たちは一旦ヴァーフォルに戻るため、帰路についていた。
エルフの姿に戻ったメクだったが、なぜかそのあと、ぬいぐるみの姿に戻っていた。
「この姿は屈辱的であるから、もう二度となりとうないと思っておったが、じゃが、歳を取らぬというのは、非常に良い。呪文も完全に覚えたし、自由に戻れるのなら、この姿もありかもしれんと思うてな」
「エルフって、寿命長いけど、歳とか気にするもんなのか?」
「当然じゃ。人間じゃろうがエルフじゃろうが、歳を取りたくないという気持ちは同じじゃろう」
寿命がないと言っても、ないわけじゃないしな。ほとんどぬいぐるみで過ごしていたら、かなり寿命が延びそうである。
元のエルフの寿命は、確か人間の三倍くらいと聞いた。ぬいぐるみになっていれば、メクは千年以上生きても不思議ではないと思う。そんなに生きたら、飽きるかもしれないけどな。
「まあ、それに元の姿じゃと、テツヤが動揺するのでな。美女過ぎるというのは罪じゃのう」
俺をからかうようにメクは言ってきた。
反論は出来ない。正直、ぬいぐるみ姿の方が接しやすい。
もちろん男として、美女のメクと一緒にいたいという欲望もあるので、残念な気持ちもあるけど。
「さて、テツヤに対するお礼じゃが……」
メクはまだお礼に何をするか言ってきていない。俺としてはお礼を貰うためにやったことではないので、要らないのだが、本人がどうしてもしたいようだ。
「やはり一日わしに何でも命令してもいいというのが、一番良さそうじゃが」
「な、何でも命令していい!?」
な、何でも言って行ったか今? そ、それだったら、あんなことやこんなこと……。
「何かテツヤが変な表情してるにゃ」
「男じゃから妄想しておるのじゃ。間抜けな顔じゃのう」
「ハッ!!」
うっかり妄想していたら、二人に白い目で見られてしまった。
メクは仲間だし、妄想の材料になどしてはいけないんだが、何でもと言ったら、どうしても妄想してしまうだろ。
「とにかくわしにして欲しいことがあったら、何でも言ってくれ。まあ、テツヤに過激な事をするような度胸はないじゃろうがな」
ハッハッハと挑発するように笑うメク。
むう、相変わらずお礼と言いながらからかってくるな。
反論できないのが辛いところだ。女性経験皆無の俺に、そんなエロい命令なんて出来るはずはない。
しかし、メクは毎回からかってくるが、男性経験があるのだろうか? 聞いたことなかったな。
当然、ぬいぐるみの姿の時にそんな経験ないだろう。よほどのド変態に捕まったという過去がない限りは、ないはずだ。仮にあったとしても、それは男性経験には入らないだろう。
ぬいぐるみになるまで、20年くらいは生きているわけで……その間に男性経験があっても不思議ではないが……しかし、女王だって話だから、軽い気持ちで誰かとつき合ったりは出来ないだろうし。
俺をからかってきながら、自分も経験なしの可能性もあるというわけか。
仕返しに俺がメクをからかってみるか?
過激な事を命令するフリをしたら、面白い反応が見られるかもしれない。
向こうからやってきたから、悪いのはメクだし……
よし……今日の夜、結構しよう。
町に到着し、宿に泊まる。
レーニャはすぐ寝た。
メクはぬいぐるみの姿だと寝れないので、元の姿に戻っていた。
寝るのは気持ちいいので、定期的に元の姿に戻って寝たいと思っているようだ。
「よし、寝るかのう」
「待った、何でも言ってくれと言った奴だけど、今、聞いてくれるか?」
「な、なに?」
メクは少したじろいでいる。
「い、今じゃなきゃ駄目じゃろうか?」
「今がいいんだ」
「わ、分かった何でも頼んでくれ……」
メクは腹を括ったようにそう言った。
俺は、ちょっとからかうつもりだったのだが、何となく真剣にお願いをするような雰囲気になっており、何だか言い出しづらくなってしまった。
仮にここで何か言ってしまったら、本当にすることになりそうな。
ほ、本当はキスしてくれとでもいって、からかってやろうと思っていたんだが……
「ひ、膝枕をしてくれ」
妥協して俺はそう言った。
俺がそう言うと、メクはキョトンとしたような表情になり、その後、笑い始めた。
「はっはっは、そのくらいならいくらでもやってやる。ほら座るから、頭を乗せるのじゃ」
メクが正座をした。俺はドキドキしながら、メクの膝に頭を乗せる。
柔らかい感覚が頭に当たる。非常に心地がいい。このまま、眠ってしまいたいくらいだ。
「全くお主はヘタレじゃのう。もっと凄いこと要求されるかと思っておったが」
「ぐ……」
今回ばかりは自分でもヘタレだと思うので、反論できない。
メクはそんな俺を見て、僅かに微笑む。
その後、口を俺の頬に近づけてきた。
柔らかい感触が俺の頬に当たる。
「本当はこれをして欲しかったんじゃろ」
俺はあまりの事に放心状態になる。
ほ、ほっぺにだけど、キ、キスされた。
顔が熱くなる。多分、真っ赤になっているだろう。
ふと、メクを見ると、彼女も顔を赤くして恥ずかしそうな表情をしていた。どうやら、やり慣れているというわけではないようだ。
「よ、よし、もういいじゃろ! 眠いから寝るのじゃ! 早く立て!」
そう促されて、俺は慌ててたった。
メクの太ももの感触が名残惜しく感じる。
その後、布団に入る。先程のキスの感触を思い出して悶々としたため、眠りに付くのにだいぶ時間がかかり、寝不足になってしまった。
翌日からは、メクはいつも通りな感じだった。基本ぬいぐるみの姿でいて、この姿の時は特に緊張もせず話すことはできた。
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