第95話 帰還

「クソ……」


 クラリカが死んだ。

 守る事が出来なかった。


 もっと、俺に力があれば……

 拳を強く握りしめた。


「あー、痛かった」

「は?」


 呑気な声が聞こえてきて、俺は思わずクラリカの方を見た。


 針が突き刺さったまま立ち上がり、それを引き抜いている。


 引き抜いた直後、胸の傷はみるみるうちに塞がっていった。


 あまりに光景に俺は動揺した。


「え? は?」

「死んだと思った? 生命の魔女の私がこの程度じゃ死なないよ。死んだら、復活する魔法を重ねがけしてるから、10回くらいなら死んでも大丈夫なんだよね私は。まあ、でもあの攻撃が魂に直接攻撃してくるやつだったら、やばかったかもだけど、ただの物理攻撃だったみたいだね」


 10回生き返れるって。チートかクラリカは。


「君もだいぶ食らって怪我をしてるだろうから回復してあげる。ってあれ無傷だ。スキルでも持ってるの? あの防御力があって、回復するスキル持ってるって、君はとんでもない奴だね」

「死んで生き返るような奴には言われたくない」


 クラリカが回復してくれた。一瞬で痛みが消える。俺は「ありがとう」とお礼を言った。


「しっかし、何なんだろうねー、あの奇妙な奴は。もうちょっと調べたいけどなぁ」

「……調べるなら、メモ帳をめくに届けた後、一人でやってくれ」

「一人じゃ無理だよー。うーん、諦めるかー」


 こんなところに来るのは、もう二度とごめんである。


「とにかくメモ帳はゲットしたし、すぐ帰るぞ。長居はしたくない」

「わかったよー」


 俺たちはソウルロード出口に向かった。


 ○


 ソウルロードを出て、メクとレーニャの元に戻る。


「テツヤ! 無事だったにゃ!」


 レーニャが嬉しそうに飛びついてきた。


「戻ってきたか!! して、メモ帳はあったのか!?」

「ああ、ちゃんとあったぞ」

「ほ、本当か!!」


 メクが飛び上がって喜んだ。


「つ、遂に呪いを解く日が……待ち侘びたぞ……さあ、早くメモ帳を渡すのじゃ!」


 クラリカがメモ帳を渡す。

 メクがページをめくって確認する。


「どれどれ……物凄い数の呪文があるのじゃが、どれがわしの呪いを解く奴かのう?」

「分かんない」

「は?」

「このメモ帳のどれかで解けると思うけど、分かんない。適当に作った魔法の呪文とか、色々あるしさ。あと、君にかけたのは呪いじゃないって、何度言えば」

「ま、待て! それじゃあ、メモ帳にあるのをしらみ潰しに唱えて行くしかないのか!?」

「うん、そうなるね」

「な、なんじゃとー!!」


 最後の最後で、面倒な作業が残されていた。


「まあ、500くらいだし、何とかなると思うよ。頑張って」

「貴様ひと事みたいに……元に戻ったら一発殴るからな……」


 メクはメモに書かれている呪文を、一つずつ唱え始めた。


 200くらい唱えたが、メクの呪いは解けない。


「ほ、本当にあるんじゃろうな……」


 全然解けないので、メクは不安に思っているようだ。


 250くらい唱えた時、メクが光を放った。


 そして、エルフの超美人の姿になった。


「おー、解けた」

「やったにゃー」

「良かったねー。てか、メクちゃん

 すごい美人だねー」


 そのあと、これはテツヤ君の気持ちも分かると、余計な一言をクラリカは付け加えた。違うって言っているのに。


 元に戻ってから、メクは自分の体や手などを確認。


 そして震えて、


「よ、良かったのじゃ〜」


 と万感の思いを込めて呟いた。その目には涙が浮かんできた。

 俺のスキルの力で、何回か元に戻ったとはいえ、時間制限を気にすることなく、ずっと元の姿に戻れるようになったのは、間違いなく大きいだろう。涙も出てくるだろう。


 メクはそのあと、いきなり俺に抱きついてきた。


「ありがとうテツヤ……お主のおかげじゃ!」


 いきなり抱きつかれて、動揺する。

 以前も抱きつかれたことはあるが、二回目だからといって慣れることはない。同じくらいドキドキした。


 メクはゆっくり俺から離れて、


「今度何かお礼をせねばならんな」


 そう言った。


「い、いや、別にお礼は……仲間だし当然というか」


 おろおろしながら答える。


「いや、お礼をせねばわしの気が済まん。何がいいかのう?」

「な、何と言われても……」


 即座に思いつくことはない。

 どうしても男なので、エロいお願いが頭の隅に浮かんできたが、一瞬でかき消した。


「もしかしたら、不埒なことをしたのかの?」

「そ、そんなことあるか!?」

「そうか、わしは別にそれでも良いのじゃが。あとで何か考えるかの」


 それでも良かったと言われ若干後悔する思いが浮かんでくるが、何後悔しているんだと、自分に言い聞かせた。


「良かったねー。戻れて一件落着だね」


 ニッコリと笑ってそういうクラリカを見て、メクが額に青筋を浮かべる。


「元に戻れたし、文句を言うつもりはない。じゃが、一発殴らせろ」

「え?」

「問答無用じゃ! 鉄拳制裁!!」


 メクの積年の恨みを込めた拳が、クラリカの頬に突き刺さった。

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