第92話 メモ帳

 歩いていると、さっきの玉蛇には、何体か出くわした。襲われない確率の方が高く、六体出くわして、襲ってきたのは一体だけだった。どういう基準で襲うのと襲わないのを決めているとのか、謎である。


 この玉蛇以外は、今の所何も出てきていない。


「あ、あった」


 クラリカが指を刺した先に、集落があった。


 本当にあったんだな。集落があるところだけ、道の横幅が広くなっている。


「気を引き締めてね。あの集落には本当にやばいのがいるから。奴がいたから、私も尻尾を巻いて逃げ出したんだ」


 クラリカが警告をしてきた。玉蛇は雑魚だったとはいえ、何かやばそうなものがいそうな雰囲気は、バリバリ感じる。警戒心を俺は高めた。


 慎重に集落に近づく。


「何もいないようだね」


 敵の気配も、住民の気配もない。異様な場所だった。


 家は何の変哲もない、平凡なレンガ作りの家である。真っ白い床に、三十件ほど立ち並んでいた。

 割と異様な光景だ。何なんだろうなこの場所は。


「この前もそうだったけど、敵は空からやってくる。今回も来るか今は分からないけど、何もいないからって油断したらダメだよ」


 注意されて俺は頷く。


「それにしても妙だね。あの家、何軒か破壊されてたはずなのに、全部無傷だ。自動的に修復されるのかな。それとも同じ場所に見えて、全然違う場所だとか」


 前回行った時、逃げる際、家を破壊したりしたのだろか。

 同じ場所に見えて、違う場所というのは……あり得ないと言いたいところだが、こんな変な場所だと、ありそうで怖い。


 俺たちは慎重に集落に足を踏み入れた。


「確かこっち……」


 クラリカが記憶を思い出しながら、歩く。俺はそれについて行く。


「この家だ。間違いない」


 家の中に入る。家の中も、特に変わったところはない。


「あった!」


 クラリカが声を上げた。上着が、椅子にかけられていた。


「あー、思い出した。ここでくつろいでたら、奴が来たんだ。引っ掛けたんじゃなかったね」


 微妙な記憶の違いがあったようだが、そんなのどっちでもいい。


「手帳はあるのか?」

「あると思うよ」


 クラリカは上着を手に取って、調べる。


「あったあった。これだ。うんうん、呪文も書いてある。これがあれば、メクちゃんも元の姿に自由に戻れるようになるよ」

「ほ、本当か?」


 クラリカは頷いた。俺はほっと一安心する。そして、良い報告を受けて、喜ぶメクの姿が目に浮かび、口元が少し緩んだ。


 その瞬間、ヒューと、何かが落下してくるような音が聞こえてきた。


「な、なんだ?」

「や、やばい! 外に出るよ!」


 大慌てでクラリカが外に出るので、俺も一緒に出る。


 外に出ると、何か巨大な物が、空から落下してきた。


 そして、ズドーン!! と轟音を立てながら、地面についた。落下の衝撃で、地面が大きく揺れる。

 落下地点にあった家は、落ち潰されて、原型をとどめていなかった。


「な、何だあれ?」


 落ちてきたものの正体は、見ても分からなかった。


 真っ白い、ビル並みに巨大な、直方体の謎の物体である。鑑定してみたが、前の玉蛇と同じく文字化けして鑑定できなかった。


 敵なのかこれ? と、観察していると、ピカッと光を放った。


「危ない!」


 クラリカが叫んだ瞬間、目の前に、壁が現れる。その壁に何かが飛んできて、直撃して、日々が入った。


「あ、危ない。アレに当たると魂にダメージを食らっちゃうんだ」

「今の魔法で防御してくれたのか?」


 クラリカが頷く。


「ありがとう。でも、魂にダメージを喰らうとどうなるんだ?」

「戦闘力が一気に落ちるんだ。スキルとか魔法とかも、使い辛くなる。食らいすぎると死んじゃうし。とにかく逃げるよ! あいつはあそこからは動かないんだ」

「分かった」


 戦う理由もない。メモ帳も取ったし。無視するのが一番だろう。たぶん死体吸収も無理だろうし。


 俺たちはすぐに謎の生物? から逃げた。


 途中何発か、魂を削るという攻撃を撃たれたが、全部回避した。


「ここまでくれば、もう奴の攻撃も届かないだろう」

「よかった。早速帰って、メクの呪いを解いてくれ」

「うん……あれ?」


 クラリカが、取ってきた上着をガサゴソと漁る。何をしているのだろうか?


「どうした?」

「いや、えーと、ちょっと待って?」


 やたら焦っているようだ。顔に冷や汗をかいている。


 まさか……


 俺は嫌な予感を感じた。


 そして、その予感は的中していた。


「ごめん。メモ帳落としてきちゃったみたい」

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