第91話 ソウルロードへ
「ついてきて」
クラリカがソウルロードへの入り口まで、案内してくれるというので俺は大人しく後をついていった。
洞窟を出て、島を歩く。
「ここだよ」
と言って止まったのは、何の変哲のない砂浜だった。
「ここに何があるんだ?」
「ソウルロードの入り口さ。こういう一見何もなさげな場所に、ソウルロードへの入り口ってのはあるんだ」
「そうなのか……どうやって入るんだ?」
「魔法で入り口を作る。ちょっと待ってて」
クラリカは呪文を唱える。とても長い呪文だ。特に何かを見ながら唱えているというわけではない。
こんだけ長い呪文を覚えられるなら、メクの呪文だって覚えてそうなもんなのにな。何で忘れたんだこの人。
呪文を唱え終える。しかし、入り口とやらは現れない。
「何も起きないぞ」
「……あー、呪文間違えちゃった。やっぱ見ないと無理か」
「何度そりゃ。最初から見ておけよ」
「何回も唱えているから今度こそいけるかなぁーって、無いそんな事?」
「そんなことない……わけでもないな……」
元の世界で、無駄に複雑なパスワードを設定して、何度も使ったからもう暗記できてるだろって、メモを見ずに打ち込んだら、駄目で結局メモを見ることになった。何てことは何度かあった。
クラリカは今度はメモを見ながら、長い呪文を唱えた。
唱え終えると、空間に穴が現れた。奥は霧がかかっているようで、全く見えない。
「この先がソウルロード。怖い場所だから気を引き締めていくよ」
「分かった」
クラリカの言葉に、俺は頷いた。確かに穴の先から、嫌な雰囲気をバンバン感じる。俺はだいぶ強くなったとはいえ、別に最強になったというわけではないだろう。気を抜いたらやられるかもしれない。
俺とクラリカは、慎重に穴の中に足を踏み入れた。
穴に入った瞬間、嫌な気配が増大した。正直ちょっとだけ恐怖心を感じる。
中に入っても相変わらず前は見えない。霧がかかっており、めちゃくちゃ歩きにくい。
「この霧どうにかならないのか?」
「もうちょっと歩けば霧がないところに出るよ」
「それならよかった」
「まあ、でもそっからが、本番なんだけど」
本番か……敵が出てくるということだろう。気を引き締めて進まないとな。
クラリカの言葉通り、しばらく進むと霧が晴れた。
見えるようになると、幻想的な光景が広がっていた。
どこまで続いているか分からないほど、向こうのまで続いている、一直線の道。道幅は広く、100mはありそうだ。地面は真っ白。
空にはオーロラのような幻想的な光が出来ていた。
綺麗な場所といえば綺麗な場所だが、俺は得体の知れない不安感を胸に抱いていた。
「すごい場所だな……そういえば上着を引っ掛けて落としたって言ってたけど、どこで引っ掛けたんだ? 何か引っ掛けるような場所はないように見えるけど」
先にはただただ、平な地面が続いているだけで、他には何も見えなかった。
「ずーーーーっと先に歩いていくと、集落だったぽいところがあるんだよ。誰もいないけど、家だけはあるんだ。そこを調査していたら、敵に襲われて逃げてきたってわけ」
ずーーーっとを強調するように伸ばしたので、かなり先にあるのだろう。出来れば早く出たい場所なのだが。
「道は一本だし迷うことはないから安心だね。行くよ」
「ああ」
俺とクラリカは歩き始める。
「そういえば、何でこんな場所に行こうと思ったんだ?」
何にもなくて暇なので、雑談を交わす。
「私は好奇心旺盛なんだ。この場所を見つけた後、どんな場所か調べてみたくなってね。ただ、洒落にならない場所だって分かってからは、いかないようにしてたんだけど。命は惜しいからね」
好奇心でこんなところに来るとは……やはりだいぶ変わった人のようだ。
それから先にずっとずっと歩いていく。あまりにも長く、最初は雑談をしていたが、次第に口数も減ってきて、無言で歩いていた。
「来る」
いきなりクラリカが、身構えながら呟いた。何が来るか分からないが、俺も一緒に身構える。
数秒後、空から何かが飛来してきた。
飛んできてものを目で見たが、何かはっきりとは分からなかった。
同じ大きさ丸く白い球体が、一個一個繋がって、蛇みたいになっており、それが空を泳ぐようにして飛んでいた。
たまの大きさは結構大きく、バランスボールより二回りほど大きい。そのたまが二十個は繋がっているので、巨体である。
どこに顔があるのかも分からない、奇妙すぎる生物である。いや、生物なのかも分からない。何なんだこいつは。
鑑定で見てみると、何か文字化けした文字が表示された。正体不明である。どれだけ強いのかわからないのは、若干不安だ。
「あれ何なんだ?」
「私は玉蛇って呼んでるけど、実際何なのかは分かんないね。こっちを無視することもあれば、攻撃してくる時もある。攻撃されたら撃退するまで、どこまでも追いかけてくるから、倒すしかない」
「強いのか?」
「弱くはないが、私一人でも倒せるレベルだ。君がいれば問題はあるまい」
倒せるのか。まあ、でも無駄な戦闘はしたくないから、どっか行って欲しいけど。
俺の願いは届かず、玉蛇はこっちに向かってきた。
戦うしかなさそうだ。
メテオを玉蛇に向かって落とす。
ちょうど体の真ん中あたりに直撃して、球が三つほど粉砕された。
玉蛇は地面に落下して、動かなくなった。
死んだようだ。
「一発か。うーん、流石だな」
クラリカは感心したように唸った。
俺は玉蛇の死骸に近づいて吸収しようとしたが、なぜか出来なかった。
「吸収できない。こいつ生き物じゃないのか?」
「確か、君のスキルは死体を吸収して強くなるって奴だったね。そいつは、正直、内臓だとか脳だとか生物らしい機関がまるでなかったから、生物じゃないかと思ってんだが、実際そうだったかもな」
内臓も膿もないのか?
俺は玉蛇の玉を拳で砕いてみたら、確かにただの石みたいな素材でできていて、中に何か詰まっているということはなかった。わけの分からないやつがいる世界だな。
「さて、先に進もう」
クラリカに促されて先に進むが、不気味さを感じずにはいられなかった。
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