第89話 洞窟の中

 ポポダータスは、『マジョサマ』とメクを見ていった。


 魔女とは生命の魔女の事か? ルリと同じく見間違えているのだろうか。


 ということはここに生命の魔女がいるのかな?


 長いこと探して来たけど、ようやく会えるかもしれん。


「マテ、コイツ、マジョサマチガウ。マジョサマ、イロクロイ」


 中にはそれなりに観察力のあるポポターダスもいるようだ。


「マジョサマノマネスル、ナンノタメ?」


 ポポターダスはメクを睨み付けてきた。

 警戒しているようだ。


 こいつらの口ぶりを見る限り、魔女をだいぶ尊敬しているようだ。魔法の力で、魔物を味方にしているのだろうか?


 この近くに住んでいそうだ。

 もしかしたら洞窟の中に魔女の家があるかもしれない。


 魔法で居場所を快適にすることが出来るようだし、こんな辛気臭い場所に家を作っても問題はないはずだ。


 一度メクに一芝居打ってもらって、洞窟の中を調べた方がいいだろう。

 色はイメチェンしたとかいえば、あっさり信じそうだ。

 メクならば言わなくても、その通りしてくれるだろう。


「真似などしとらんわ! わしはメクじゃ! 魔女などと間違われて非常に不愉快である!」


 と思ったら必死に否定した。

 そ、そんなに魔女と思われることが嫌いなのか。憎んでいる相手なので仕方ないのかもしれないが。


 俺は小声でここは本物の魔女のフリをするよう頼んだ。


「ぐ……そうか……確かにこの場はそうした方が……仕方ない」


 メクは声色を変えて、


「というのは冗談で、確かにわしは生命の魔女じゃー。色が違うのはちょっと気分を変えてみただけ。いつも同じ色だと、つまらんじゃろ?」


 棒読みでそう言った。

 口調もそのままだし、あまり演技ができるタイプではメクはないらしい。


 ただポポターダスは騙されたようだ。


「ソウダッタノカ。タシカニ、イツモイッショ、ツモラナイ」

「トコロデ、ホカノヤツラハ、ナンナンダ?」


 俺たちの事を聞かれた。ここは友達かなんかと言えばいいだろう。


「こ、こいつらは友達じゃー。危険はないから手を出すでないぞー」

「トモダチ。マジョサマノトモダチナラ、カンゲイ」


 中に入れてくれた。


 一応戦わずに入れるようだな。

 会話できる奴らは、なるべく殺したくはない。


 洞窟の中にはポポターダスが大勢住んでいた。

 かなりデカい連中が50体以上はいるので、なかなかの迫力である。


 いざ戦いになった時は、すぐさま応戦できるよう警戒心を高めながら歩く。


 俺たちはポポターダスに不審な目で見られたが、生命の魔女の友達だと説明すると、すぐに警戒心を解いた。相当慕われているようだ。


 さて住処はどこにあるか。

 ポポターダスに尋ねたら、流石に怪しまれるだろう。自分の家が分らなくなるとは考えにくい。


 ただ、変にウロウロして探すのも怪しまれそうだが……


 今のところはウロウロして探すしかないか。


「こ、これ!」


 歩いているとルリが何かを見つけて声を上げた。


 割れた水晶玉のようなものが落ちていた。


「こ、これ師匠が作った魔法水晶ですよ! 間違いありません! 何度か使って壊れたから捨てたんだと思います!」

「確かか? そんなものがここにあるということは……本当に生命の魔女はここに住んでおるのかのう」


 メクはそう推測した。


 すると、


「アイツラデス! ニセノマジョサマハ!」


 ポポターダスの声が聞こえてきた。


 驚いて声の聞こえてきた方を向くと、黒い色のメクとそっくりのぬいぐるみがポポターダスを従えて、こちらに歩いてきていた。


「コノマジョサマ、ホンモノ。オマエラニセモノ。ニセモノ、コロス」


 物騒なことを言いながら、ポポターダスは武器を構える。


 ポポターダスを率いている、あの黒いぬいぐるみ。

 あれが生命の魔女なのだろうか。


「師匠!」


 ルリが現れたぬいぐるみを見てそう叫んだ。やっぱりあれが生命の魔女なのか?


「あれ? ルリじゃないかい。それと、本当に私の偽物もいる。うーん、どういう状況だいこれは」


 ぬいぐるみはそう呟いた。


 口ぶりからして奴が生命の魔女で間違いなようだな。


「コロス。コロス」


 そう言いながら、ポポターダスが俺たちに襲い掛かってくるが、それを生命の魔女が止めた。


「やめろ。そいつらは私の客人だ。襲うんじゃない」


 魔女の言葉一つでポポターダスが達は襲うのをやめた。

 そうとう飼いならしてあるようだ。


「付いてきて。私の家に案内してあげる」


 そう言って生命の魔女は歩き始めた。


 俺たちは後を付けていく。


「師匠! 会いたかったですよー!」

「何でアンタはここにいるんだい?」

「探しに来たんですよ~。長い間、帰ってこないから心配してたんですよ! このテツヤさん達が一緒に探してくれたんです」

「そうか……悪かったね。寂しい思いをさせて」


 申し訳なさそうに生命の魔女は言った。


 その後も歩き続けて、洞窟の一番奥に到着した。

 生命の魔女は洞窟の壁に手をかざす。すると、壁が割れて開いた。隠し扉だったようだ。


「さあ、中に入って」


 そう言いながら生命の魔女が中に入っていくので、俺たちも中に入った。


 全員が入った瞬間、自動的に隠し扉が閉まった。


「ようやく会えたのう……」


 その瞬間、メクがいきなり走って、生命の魔女に対して飛び蹴りをした。さっきまでやたら大人しいと思っていたが、ポポターダスがいるから面倒なことになりそうなので、タイミングを計っていたのだろうか。

 ぬいぐるみの姿なので、飛び蹴りに全く威力はなく、生命の魔女にダメージはない。


「さあ、わしを元の姿に戻せ! 今すぐ戻せ!」

「な、何だねいきなり」


 生命の魔女は困惑する。


「何だねじゃない! 貴様がわしをこの姿にしたんじゃろ!」

「うーん。私以外にその魔法を使う人はいないだろうから、多分そうだと思うけど。とにかく、ちょっと落ち着いてくれよ。自己紹介しようとしてたのに」


 メクはそれを聞いて、少し心を落ち着かせ生命の魔女から離れた。


 そのあと、生命の魔女は何やら呪文を唱え始める。


 体が徐々に黒い靄に覆われていき、しばらくたつとぬいぐるみではなく、人型になっていた。


 これが生命の魔女の本当の姿か。


 人間のような姿だが、頭から角を生やしている。

 そういえば、人間ではなく魔人だという話だったな。


「私はクラリカ・メンシャムだ。生命の魔女と呼ばれてもいるね。まずは、ルリをここまで連れてきてお礼を言おう」

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