第88話 モーエン島

 俺たちは船に乗り込んだ。


 レーニャとルリは初めて船に乗るようなので、船酔いしないか心配である。


 それから出港の合図があり、船が動き始めた。


「にゃ~! 揺れるにゃ~!」


 船の揺れ方は物凄くレーニャが悲鳴を上げる。

 かなり凄い揺れだった。

 日本では何度か船に乗ったことはあるが、ここまで揺れたのはない。


 ここまで揺れるともはや遊園地のアトラクションのような感じである。


 ただ揺れてはいるが、吐き気など気分が悪くなったりはしない。

 日本にいたころは車酔いをするタイプだったので、ここまで凄い揺れだと酔っても不思議ではないが、全然酔わない。こういうのにもステータス上昇の恩恵があったりするのだろうか? 


 まあ、理由はともあれ酔わないことは良いことだ。


 そのまま数時間航海を続けて、島が遠くの方に見えた。


 大きな山がある島で、頂上から白い噴煙が出ている。

 あれは間違いなく火山だ。


 モーエン島は火山のある島だという話だったし、ここがそこで間違いないだろう。


 近付いてみると結構広い島でありそうだという事が分かった。


 しかし、あの火山、今でも活動しているようだ。

 噴火したりしたらやばいと思うのだが。

 モーエン島には人が住んでいるのだろうか?


 船がモーエン島に到着した。

 港があるようで、魚人たちが何人か港を歩いていた。

 普通に住んでいるようだな。


 魚人だしいざ噴火が起きても、すぐに海に逃げ込めば大丈夫だったりするのだろうか。

 もしくはあんまり強い噴火を起こさない火山だったりするのかもしれない。


 とにかく着いたし降りるか。


 そう思ってレーニャたちを見ると、


「も、もう駄目にゃ……」

「今日が私の命日のようです……」


 レーニャとルリが完全に船酔いのせいでダウンしていた。


「情けないのう二人とも。船に乗った程度でへばりおって」


 メクが呆れたように言う。


「し、師匠はぬいぐるみの姿だから、この苦しみが分からないのにゃ~!」


 レーニャがもっともな反論をする。

 ぬいぐるみ状態だと、こういう時何も感じないので便利ではある。


「テツヤは平気にしておるぞ」

「テツヤはテツヤだからにゃ」


 何か俺いつの間にか別枠にされたんだけど。

 どういうことだ。


「まあ、慣れないから仕方ないだろ。とりあえず船から降りて酔いを醒まそう」

「そ、そうするにゃ~」

「メクさん~。もふもふすれば酔いがさめると思うので、もふらせてください~」

「させるか! てか治るわけなかろう!」


 俺たちは船から降りる。


 レーニャとルリの酔いを醒ますため、休憩を取った。


「もう大丈夫にゃ」

「私ももう大丈夫ですー」


 二人はそう言った。

 だいぶ顔色も良くなっているし、回復したと考えて間違いないだろう。


「よし、じゃあ、どこかに生命の魔女がいるのか、聞き込みを始めるか」


 生命の魔女に関する聞き込みを開始した。


 住んでいるのは全員魚人だった。


 人間や獣人が来るのは物凄く珍しいことのようで、住民たちは珍しがって俺たちを見に来た。


「珍しいな人間と獣人なんて」「俺たちこの島から出たことないんだ」「この島っ火山があるだけで、ほかに大したものないけど、何で来たんだ?」


 質問攻めにあって俺たちは少し混乱する。


 きちんとこの島に来た理由を説明しないとな。


「人探しのために来たんだ」

「ん? この島に人間がやって来ることはほとんどないぞ? 俺が人間を見たのは、あんたが初めてだ」

「人間じゃないんだ。確か魔人って種族だったな。魔女なんだけど見覚えはないだろうか?」

「知らねーな。船でこの島に来てたんなら、ここにいる誰かは見ているはずなんだがな」


 集まった魚人たちに、生命の魔女に関して質問をしていったが、知っている者はいないようだ。どうやら船で来たわけではないようだ。


 魔女だし、船を使わなくても海を渡る方法がある可能性はある。


「そういえば、バンの奴が魔女を見かけたとかって言っていたのを、今思い出したぞ」


 魚人の一人がそう言った。


「本当か?」

「ああ。バンの野郎は馬鹿で、島の危険地帯に腕試しとか言って行くことがあるんだ。ルパーソン洞窟って言って、ポポターダスの巣になってるんだ。そこで見たらしい。あんなところに人がいるわけないから、俺たちは誰も奴の話を信じなかった。ポポターダスに襲われて、死にかけたらしいから幻覚でも見たんだろうってことで、それから忘れていたんだが」


 なんか分からない名称が出てきた。何だポポターダスって。想像すら出来ん。

 たぶん口調からして魔物の名前だと思うんだけど。


「ポポターダスってのは何だ?」

「カバって動物を知ってるか?」

「知ってるけど」

「じゃあ、分かりやすいな。カバが二足歩行したような魔物だ。とにかく巨大だ。魚人の三倍はデカい。デカいだけじゃなく速いから、とにかく強い。まあ、基本的には草を食ってる魔物だから、大人しいんだが、不用意に巣に近付くと怒る。だから、ルパーソン洞窟には馬鹿じゃない限り、この辺の奴らは絶対に近付かないんだ」


 カバが二足歩行している魔物って、何か怖そう。カバ自体が意外と怖い動物だって話だしな。


「情報ありがとう。そのルパーソン洞窟はどこにあるんだ?」

「ん? 調べてくるつもりか? 悪いことは言わんがやめた方がいいぞ」

「どうしても生命の魔女に会う必要があるんだ」

「よっぽど大事な人なのか? まあいいか。ここから北東に洞窟はある。探すなら気を付けて探すんだぞ」


 情報を貰い、俺たちはルパーソン洞窟があるという北東へと向かった。



「ここがルパーソン洞窟か?」


 北東に進むと、巨大な穴が崖に開いていた。


 洞窟のすぐ前に、ポポターダスっぽい魔物がいる。


 魚人の男が言っていた通り、二足歩行のカバのような外見をしているのでほぼ間違いないだろう。


 石の槍を持ったり服を着ていたり、ある程度知能は兼ね備えているようだ。


 俺はあれが本当にポポターダスなのか、一応鑑定してみる。


『ポポターダス。個体名:ドバッバ。Lv.20/32 17歳



 HP 321/321

 MP 2/2

 強力なパワーを持った魔物。普段は大人しく積極的に他者を襲う事はしないが、巣に近付く者には容赦しない』


 ポポターダスみたいだな。

 レベルからしたら、HPがやけに高いけど、MPがめっちゃ低い。

 脳筋タイプの魔物か。

 しかし、こいつらが本当にポポターダスなら、生命の魔女が巣の中にいるなんてありえなくないか? この説明を見る限りでは。

 洞窟を通り抜けた先に、生命の魔女の住処があるのだろうか?

 もしくは魔女だから、ポポターダスも従えているのか?


「あのポポターダスは、会話不可能なのかのう? 割と文明を持っているように見えるが」

「巣に近付く者には容赦しないようだぞ」

「そうなのか。しかし、そうなると生命の魔女があの洞窟にいるというのは、おかしな話に……」


 メクも俺と同じところに引っかかっているみたいだ。


「まあ、行けば分かることか。倒せそうか奴らは」

「ああ。見張りをしている奴なら、100体いても倒せる」

「そうか、それは頼もしいな」

「じゃあ、行くぞ」

「分かったにゃ!」


 俺たちは洞窟に向かう。


 すぐにポポターダスに俺たちの姿は見つかる。

 ポポターダスは持っている武器を構えて、警告してきた。


「コレイジョウ キタラコロス」


 片言だが言葉をしゃべれるようである。


 一応、問答無用というわけではなさそうだ。


 対話を試みてみよう。


「俺たちは戦いに来たわけじゃない。その洞窟に入らせてくれないか? 生命の魔女ってのを探しているんだが」

「シャベルナ キタラコロス」


 うーん、話し合う気はなさそうだ。

 やはり力ずくで通るしかないか?

 とはいえ、仮に魔女がいなかったら、可哀想だよな。

 彼らも、自分の住処を守ろうとしているだけなのに。

 俺には【雷撃サンダーショック】ってスキルがある。これは敵を痺れさせるだけで、殺しはしない。

 ここは殺さずに【雷撃】で、どうにかするか。


 そう思って、さらに洞窟に近付くと、ポポターダスが襲い掛かってきた。


【雷撃】を使おうとする寸前で、ポポターダスが攻撃をストップさせた。


 俺も合わせて使うのをやめる。


 どうしたんだ?


 何かメクを見ているようだけど……


「マジョ! サマ!」


 ポポターダスはメクを見て、そう叫んだ。

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