第78話 トーカ

 早朝、王都を出発してトーカに向かって歩いていく。


 それなりに整備されている道を歩いたため、道中魔物とは出くわさなかった。

 早くメクの呪いを解いてあげたいので、なるべく早く行きたかったのでわざわざ魔物を探して倒すという真似もしなかった。


 トーカまではあまり時間はかからず、日が暮れる前には到着していた。


 到着して最初にのどかな村だな、という感想を抱いた。


 獣人の村だが、レーニャのようなケットシ―は一人もおらず、ほぼ狼の獣人ライカンスロープが住んでいるようだ。


 村人たちから、森についての情報を聞き出すことにした。


「少しいいだろうか?」


 村を歩いているライカンスロープの男に声をかける。


「何だ? 人間か? 人間がこの村に来るのは珍しいな」


 人間はやはりあまり来ないようだったが、そこまで敵対心を持たれているというわけでもなさそうだった。


「ルクファナの森というのは、この村の近くにあるのか?」

「あるぜ。ここから北側にある森だな。だがあそこは危険な場所だから行かない方がいいと思うぜ」

「危険なのか?」

「ああ、この村の連中は誰も立ち入らないな。魔物のレベルがとにかく高いんだ。あんたもよほど腕に自信があるというわけじゃない限り、入るのはやめておいた方がいいぜ」


 腕にはよほど自信があると言ってもいい。

 危険でも入るのは、何の問題もない。


「ルクファナの森に生命の魔女がいるという話を聞いてここまで来たんだが、心当たりはないか?」

「……生命の魔女? そう言えば噂だけど、森には魔女の家があるとか聞いたことがあるようなないような。でも詳しくは知らん。だって入ったことないからなルクファナの森には」

「そうか」


 ほかの者たちも聞いてみたが、ほとんど同じ反応だった。


 全員に話しかけるのも、時間がかかるので次は知っている人に心当たりがないかを尋ねることにした。


 すると、


「村長ならもしかしたら何か知っているかもしれないわ。今はおじいちゃんなんだけど、昔は強くてルクファナの森に何度か行ってたらしいから。確か魔女の話も村長がしてたと思うわ」


 村長の情報を聞くことが出来た。

 住んでいるところを聞いて、俺たちは村長の家へと向かった。


「ここか」


 一際大きな家に、村長は住んでいるようだった。


 家の近くを掃除している女性がいたため、俺はその人に話かける。


「ここに村長が住んでるって聞いてきたんだけど……」

「人間……? 珍しいわね。村長に何か用?」

「ちょっと話が聞きたくて、ルクファナの森に棲んでいる魔女について話を聞きたくて……」

「魔女? そういえばそんなこと昔聞いたことがあったわね。ああ、私は村長のサマンの娘のキャンシーよ。ちょっと待っててね」


 キャンシーは家の中に入る。

 しばらくして戻ってきて、


「話してくれるって。本人も魔女の話は誰かに聞いてもらいたいと思っていたみたいね。あんまり村の住民は興味持ってくれなかったみたいだから」


 そう言った。

 話してくれるようである。


 俺たちは家の中に入る。


「お主が魔女について聞きたいと思っておる人間か!!」


 入った瞬間、怒鳴り声が飛んできた。


 顔にいくつものしわがある、ライカンスロープの老人がこちらに向かってきた。


「早速わしの話を聞くといい」


 自己紹介も何もせず、いきなり話を始める。

 どうもかなり話したかったらしい。


「わしが魔女と会ったのは、数十年も前の話じゃ。こう見えて昔は強くてな。ルクファナの森におる凶悪な魔物どもも、わしにかかれば倒すことが出来たのじゃ。今は無理じゃが。その日も森で狩りをしており、獲物を狩り終えた時、家を見つけたのじゃ。何でこの森に家が? と思ったな。当然じゃろう。わし以外森に入るものはほとんどいなかったからのう。気になって調べてみると、人が住んで居る痕跡がある。昔誰かが住んでいた家とかではなく、現在も誰かが生活しておるようじゃ。驚いたわしは家の中に入ると、そこに綺麗な女がおった。種族は獣人ではなく、魔人じゃったな」

「魔人?」

「高い魔力を誇る強力な種族じゃ。角が生えておるのが特徴じゃな。そいつは自分を生命の魔女と名乗った。中々気さくな人物で、すぐに仲良うなった。次に森に行ったときにその家があった場所に行ってみたら、家はあったのじゃが、魔女はおらんようになっておった」

「いないのか?」

「そうじゃ、あれ以来一度も会えておらん。もう一度会えたらいいと思っておるのじゃがな……」


 どうやら今は住んでいないようだ。


「ふむ、じゃが家はあるんじゃな? もしかしたら今どこにいるのか手掛かりがあるかもしれんぞ」

「手掛かりか……わしは失礼じゃと思って、中はあまり探さなかったがな。お主らは何で魔女に会いたいのじゃ?」


 俺はメクの事情を話した。


「珍しい獣人の一種と思っておったが、呪いでそんな姿になっておったのか。しかし、あの魔女がそんなことをするとは思えんがのう……なんかの間違えじゃないか?」

「確かに本にぬいぐるみにすることがあると書いてあった。まあ、間違いの可能性は否定できんがのう。とにかくあって話を聞かんことには、本当なのかどうか判別はつかん」

「それもそうじゃが……」

「それで、その生命の魔女がいる場所は森のどの辺になるんだ?」

「お主ら森に入る気か? 腕に覚えはあるのか?」

「ああ、大丈夫だと思う」

「自信満々じゃな。まあ、止めはせぬが。わしが案内出来れば早いのじゃが、この老体なので無理じゃな。ルクファナの森の中央には一際巨大な木がある。外から見てもすぐに分かるほど高い木じゃ。まずはそこに行って、その樹から西側に行けば、家はあるはずじゃ」


 場所を教えてもらった。

 お礼を言って、俺たちはルクファナの森へと向かった。

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