第74話 終結
俺たちはオオシマを倒した後、奴の死体を持ったままヴァーフォルに引き返していた。
戦況はかなりまずくなっており、兵士たちが大勢街になだれ込んできている。
俺たちはまず防壁に上る。メクとレーニャを抱えて、防壁の上に上がった。
そして大声で勇者オオシマを討ち取ったと叫んだ。
しかし聞いてもらえない。俺はそれほど声が大きいほうではなく、戦場の喧騒にかき消されてしまう。
「ぬう。声を大きくする魔法を使えればいいのじゃが、わしはこの姿になってしまっておるし」
「それって俺も使えないのか?」
「む? 魔法は呪文を唱えれば簡単に使えるし、増音の魔法はその中でも使用難易度が低い魔法じゃ。多分使えるじゃろう。MPは残っているか?」
「ああ」
俺は呪文をメクから教えてもらい、魔法を使用した。
初めて使用した場合は効果が薄いじゃろうから、重ね掛けをするのじゃ、とメクに言われたので、三回ほど使用する。
そして俺は大声で、
「勇者オオシマは討ち取った!」
と叫んだ。
あまりの大声に耳がやばいことになる。思ったより音が大きくなりすぎた。
【
レーニャはあらかじめ耳をふさいでいたので、平気であったようだ。
流石にこの大声に兵士たちは反応した。
俺たちの方に視線を向ける。
そして、オオシマの死体を目撃してざわつき始める。
「あ、あれは勇者様?」「し、死んでるだと?」「馬鹿な……殺されたのか? あいつに?」「ちょっと待てあいつ限界レベル1だぞ?」「でも勇者様は本物だ……」
動揺しているみたいだ。
すると指揮官と思われる人物が、
「動揺するな! あれは敵の罠だ!」
と叫んで兵たちの動揺を立て直そうとする。
これはまずいと反射的に感じた俺は、【
一発だけではなく何発も立て続けに落とした。
レベルが上がり巨大になった【
大勢の兵士たちが、隕石に潰され死んでいった。
「う、嘘だろ」「わ、罠なんかじゃない。この強さ」「本当にあいつが勇者様を殺したんだ」
俺が勇者を倒すほどの強さを持っていると、分かってもらえたみたいだ。
恐怖で錯乱した兵士たちの中に、逃げ出すものが現れ始めた。パニック状態になっている。
そうなると、元々戦っていたヴァーフォル側の兵士たちが次々に敵兵を討ち取り始め、場は完全に混乱する。もはや敵の将ですら立て直すことは、不可能になっているみたいだ。
「撤退!! 撤退!!」
敵将たちが叫び、敵兵が一斉に撤退を開始した。
かなり危ない状況だったようだが、なんとか追い払えたな。俺はほっと胸を撫で下ろす。
敵が街から逃げるのを上から眺める。
ふと視線が建物の屋上に行く。
誰かが戦っている。
いや、あれって……
「リコ!?」
よく見ると戦っているっていうより、何か連れ去られようとしている。
助けに行かないと!
俺は急いで防壁から、下にある家の屋根に飛び移る。
メクとレーニャが驚く声が聞こえるが、説明している暇はない。
俺は建物の上を飛び移りながら、リコのいる場所へと急いで向かった。
非常に身体能力が強化されているので、リコがいる場所に行くのにそこまで時間はかからなかった。
敵兵はリコを殺そうとしているわけでなく、連れ去ろうとしているみたいだ。
ほかの兵士たちが撤退を始めているので、かなり焦っているように見える。
俺は屋上に飛び移り、兵士たちを数秒で殴って気絶させた。
「テ、テツヤさん」
「もう大丈夫だ。俺たちの勝ちだ」
リコはほっとしたからか、その場で座り込んだ。
「ありがとうございます……テツヤさん……」
そうお礼を言ったリコの目には涙が浮かんでいた。
何とか俺たちは勇者の侵略を防ぎきることに成功した。
〇
敵を追い払ってから数日が経過した。
勇者が死んでも、もう一度攻めてくるかとも思ったが、予想に反して攻めては来なかった。
敵にとって勇者の存在というのは想像以上に大きいものなのだろう。
「テツヤさん、本当にありがとうございました。テツヤさんがいなかったらどうなっていたことやら」
俺はリコに改めてお礼を言われた。
「いや、俺は自分のために戦っただけだから、お礼を言う必要はないよ」
「それでも言わせてください。……あの時、たぶんですけど、テツヤさんの言っていた
「!!」
「あのままだともしかしたら、意識を奪われたかもしれません」
「そう……だったのか」
そこまでピンチだったとは、間に合ってよかったな。
「リコはこれからどうする気だ?」
「しばらくはこの町の復興に力を注ぎたいと思います。まあ、町はそこまで壊されてないですが、防壁はボロボロになっちゃってますし、それに兵士たちも大勢死んでしまって……悲しむ遺族の方たちにも何かしてあげないといけませんし」
その言葉を聞いて、リコは本当にヴァーフォルの指導者みたいなものになっているのだと実感した。戦争で嫌な経験もしただろうに、下を向かない彼女の責任感の強さも感じた。
「テツヤさんはこれからどうするんですか?」
「そうだなぁー。元々刻印のことを調べるために、ここに来たんだし、しばらくは残って調べ物をするよ」
「あ、そうですか」
俺が残ると言ってリコは嬉しそうな反応をしてくれた。俺も少しその反応で嬉しくなる。
「そうだ。図書館には特別な人しか読めない本があるんですが、テツヤさんたちにもそれを読めるようにしましょう」
「本当か?」
「ええ、テツヤさんはこの町を救った英雄ですもの。そのくらい当然です」
とにかくより深い情報を調べられそうになってよかった。
まあ、普通に誰でも読める本を調べ終えていないので、それを調べ終えてから特別な本を読むことになるだろうが。
俺はメク、レーニャと一緒に図書館での調べ物を再開した。
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