第70話 vs勇者オオシマ①

 剣を抜いたオオシマは、まずは俺に斬りかかってきた。


 はっきり言って遅い。敵の表情から見て、恐らく本気で攻撃してきてはいないだろう。俺が限界レベル1だということで、相当油断しているようだ。


「まずは一匹」


 この攻撃は避けるまでもない。右肩で受け止めた。ダメージはゼロ。


「あ?」


 攻撃の手応えがおかしいと気づいたオオシマは、呆気に取られたような表情を浮かべる。

 俺は剣を抜き、オオシマの心臓を狙って攻撃した。


「うお!」


 俺の剣はヒロシの鎧に阻まれた。やけに硬い鎧だな。俺の攻撃を受けても、貫かれないとは。


「なんだこいつレベル1の癖に」


 予想が外れて、だいぶ焦っているようだ。


 レーニャが【獣化(ビースト・モード)】を使用し、オオシマ後ろから飛びかかる。


「にゃあああああ!」


 鎧のない場所をするどい爪で切り裂こうとする。

 不意の攻撃だが、オオシマは間一髪で回避する。

 回避したあとレーニャを斬ろうとするが、レーニャは攻撃が避けられたと思ったら、すぐにオオシマの剣の間合いから離れていたので、斬られることはなかった。


「剣を強化せよ!」


 メクが魔法を使った。

 俺の持っている剣が赤い光に包まれる。


 初めて見た魔法であるが、呪文からどんな魔法か大体想像はつく。恐らく剣の斬れ味を鋭くする魔法であろう。鎧を斬ることが出来なかったのを見て、使ってくれたのだと思う。


「鎧を脆くせよ!」


 さらにメクは魔法を使用した。今度はオオシマの鎧の耐久力を下げる魔法か。

 しかし、俺の剣のように光に包まれたりする事はなく、何も起こらない。


「やはり効かぬか」


 どうやら失敗したようだ。

 オオシマの鎧には、魔法を寄せ付けない、特別な力があるようだった。


「ったくレベル1が弱くないってどういうことだよ。限界レベルが低いやつは必ず弱いんじゃなかったのかよ。あいつら嘘教えてたのか? まあいい。少しは本気(マジ)で戦うか」


 オオシマはそう言って、今度はさらにスピードを上げて攻撃してきた。


 とはいえ、正直、速いとは思わない。この程度の速度なら、避けるのも受け止めるのも楽勝である。


 俺は攻撃を避けて、それからオオシマの頭に斬りかかった。


 攻撃は当たった。しかし、斬れてはいない。ガァン!! というまるで金属にでも当たったかのような音が響き渡った。


「いてっ!」


 オオシマは額を抑えながら後退する。


 何だ今の硬さは。


 俺はオオシマのHPを見る。


 1521/1587


 あまり減っていない。

 速度重視で斬ったから、それほど凄まじい威力はなかったとは出ていなかったとはいえ、この程度のダメージとは。


 こいつ防御力に特化しているタイプなのか。


 まあ、防御力はすごくても、ほかの能力はそれほどずば抜けてはなさそうだ。

 これならしっかり戦っていてば勝てるだろう。


「っち、しゃーないあれを使うか。【|伝説の勇者の盾レジェンド・シールド》】」


 オオシマがそう言った瞬間、光り輝く盾が出現した。オオシマはそれを手に取った。


 あれが奴が勇者として持っているスキルか。


 先ほども俺の攻撃を受けても、そこまでダメージを受けなかったし、やはりオオシマは防御力が高いタイプの勇者なのだろう。


「あんまりかっこよくねーんだよな盾って。正直剣でぶった斬りまくる方が、俺としては好きなんだけどな」


 本人の性格としては攻撃型なのかもしれないが。


 勇者が出してきた盾だし、ただの盾とは思えない。慎重に攻めないとな。


 そう思っていると、レーニャがオオシマに飛びかかる。


 オオシマは俺に向かって盾を向けているし、レーニャは気付かれないよう背後から攻撃したので、オオシマはレーニャの攻撃に反応できていない。


 これは攻撃が通ると思ったら、そこでオオシマは常人離れした反応を見せて、レーニャの攻撃をガードした。


「にゃ!!」


 すると盾を攻撃したレーニャが後ろに吹き飛ぶ。

 ダメージを受けているみたいだ。鑑定で見てみるとHPが20ほど減っている。オオシマは攻撃した素振りなど一切見せなかった。恐らく攻撃を反射する力があるのだろう。


 しかし、レーニャの奇襲を止めた超反応。

 元々オオシマはあれほど早く動けるのか、もしくは盾を出したおかげで、あれだけの動きが出来るのか。


 メクが呪文を唱え始める。結構長い。

 何の魔法かは分からないけど、高威力の魔法だと思う。


 オオシマは呪文を唱え始めたメクを攻撃しに行く。俺はそれを止める。盾を出す前よりもスピードが上がっているように見える。剣の威力も上がっている。恐らく気のせいではなくステータスが強化されているのだろう。オオシマのHPを見てみると、1766/1776となっていた。限界値が、増えているし、HPが回復しているみたいである。タケイの【再生リジェネ】のような効果もあるのか。


 何度か切り結ぶと、オオシマは盾を構えてきた。攻撃しそうになったところで一度止める。反射する効果があるのだった。


 攻撃を誘ったのを無視されたオオシマは、舌打ちをして後ろに下がる。


 確かにステータスは上がっているが、それでも全然対応できるレベルだ。動きも俺より遅く、攻撃力もそこまで脅威があるわけではない。


 ただ反射機能のある盾は厄介である。敵の攻撃力がさほど高くなくても、防がれて反射されたらこちらがダメージを受けてしまう。オオシマは素の防御力も高いので、半端な攻撃でダメージを与えることは出来ないだろうから、本気の攻撃をする必要があるしな。


 メクが呪文を唱え終えたあと、


「レーニャ、テツヤ! 離れるのじゃ!」


 大声で指示を出してきた。

 指示に従い、俺とレーニャは後退して距離を取る。


 すると、空から燃えている巨大な岩が落ちてきた。


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