第55話 リコの家

 リコの案内に俺たちはついて行き、大きな家の前に到着した。


 厳重な防壁があり、門の前には大きな鎧を身につけた門番が立っている。


「大きい家にゃー」

「すごいところに住んでいるんだな」

「私はもっと、質素なところに住みたいんだけど……安全を考慮してとのことです」


 誰に言われてここに住んでいるのかは、分からないが、リコはやはりこの街では重要な人物となっているようだな。


「ただいま帰りました」

「あ! リコ様!」


 門番の男に声をかけると、驚いて声を上げた。


「何をなさっていたのですか! また勝手に外に出て、大騒ぎですよ屋敷の中は」

「ごめんなさい」

「出るなら、護衛の者を付けていかないと……ん? なんですこの者たちは」


 門番が俺たちの存在に気づいた。


「何やら怪しい奴らですぞ! リコ様、おさがりください!」


 門番は腰に下げていた剣を抜いてきた。


「け、剣を抜かないでください! 私が招いたお客様ですから!」

「ぬ、そうですか。それは失敬しました」


 そう言って剣を収める。

 いきなり剣を抜いてくるとか、何とも気が早い門番だ。


 その後、門が開き俺たちは中へ。


「本当は外に出てはいけなかったのか?」

「え、えっとですね。危険なので出るときは護衛を付けろって言われているんですけど、でもそれだと聖女がいますよって言っているみたいな様で、注目されちゃうんですよ。なるべく一人になりたくて」

「そうなのか。図書館にいたのは、そういえば何で何だ?」

「私、読書が好きなんです。この世界にも小説みたいな本がたまにあるので、それを図書館で読んでいるんですよ。テツヤさんは、何で図書館に?」

「少し調べたいことがあって」

「そうなんですか。何をお調べになりたいんですか?」

「あとで詳しく説明するよ」

「分かりました」


 喋っているうちに、リコの家のドアの前に着いた。

 中に入る。


 入るなり大騒ぎに。

 リコは部下の人に色々言われるが、客がいるということもあって、静かになった。


 内装は意外と質素な感じで、豪華な飾りなどはない。

 客間に案内されて、俺たちは椅子に座る。


「じゃあ、何から話しましょうか。テツヤさんの話したいことからにしますか?」

「そうだな。リコの右手の甲に刻印が刻まれているか?」

「え? ありますけど、何で知ってるんですか?」

「やっぱりあるのか」


 俺は自分の手の甲を見せる。


「あ! それ私のと一緒です! ほら!」


 手袋を外して右手の甲を俺に見せてくる。

 たしかに俺と一緒の刻印だ。


「それに関して話があるんだ」


 俺は刻印に関して、知っている限りのすべての情報を話した。


「深淵王(アビスキング)ですか……」


 リコは話を聞いて考え込む。


「この刻印にそんな意味があったんですね。私の場合は、気付いたら右手に刻まれていましたから」

「ん? 君はあの黒騎士に会ってないのか?」

「ええ、気絶して目覚めたらあったみたいな感じで」

「気絶って何があったんだ?」

「ああ、大したことじゃないんですよ。今はこうして無事に生きていますしね」


 ならいいけど。


「えーと、それでこの刻印が刻まれると、何か危機が起こるんでしたっけね。うーん、今のところそんな事起こったことはないですね。しばらくは平和そのものでした」

「そうか、でも気をつけてくれよ」

「はい。教えていただいてありがとうございました」


 リコはニッコリと笑ってお礼を言った。

 中々笑顔の可愛い子である。


「えーと、俺の話はこれだけだけど……」

「あ、そうですか。あの、これはだめなら全然いいんでけど、テツヤさんが異世界に来て、どう過ごされていたのか、聞いてみたいんです」

「俺の話?」

「ええ、興味があるんです」

「別に話すのは構わないけど……」

「本当ですか! ぜひお願いします!」


 かなり嬉しそうにしている。

 俺なんかに興味があるのだろうか。

 それともで異世界の冒険譚に興味があるのだろうか。


 きっと後者だな。本が好きだと言ってたし、異世界で冒険した話なんか聞いてみたいんだろう。


 俺は若干大げさに、自分が異世界に来てからの事を話した。


 リコは目を輝かせて、俺の話を聞いていた。

 やっぱりこういう冒険話が好きなんだろうな。


「大変だったんですね。テツヤさんも」


 も、ということはリコもいろいろあったのだろうか。

 それはそうか。どういう経緯で聖女と呼ばれるようになったのかは不明だが、何の苦労もせず生きてなんてことはそうそうないことだろう。


「しかしメクさんはエルフの女王なんですか。見てみたいですね」

「今日の朝、元に戻ったからしばらくは無理じゃ」

「そうですかー、残念ですねー。あとレーニャさんも最初は黒い子猫ちゃんだったんですね」

「そうにゃ。あの時は大ピンチだってけど、テツヤのおかげで助かったにゃ」

「私、猫好きなんで、一回猫の姿になって撫でさせてくれませんか?」

「にゃにゃ!? 戻れないわけじゃないけど、それはいやにゃ! あの姿は小さくて弱くて好きじゃないにゃ!」

「そうなのか。あの姿も可愛かったぞ。もう一回撫でてみたいな」

「テ、テツヤに撫でてもらるなら……い、いやダメにゃ、あの姿に自分から成るなんてありえないにゃ!」


 よっぽど子猫の姿が嫌いなのか、頑なに拒む。もう一回子猫姿のレーニャを撫でてみたいのは本心なので、少し残念だ。


「そうだ。俺の話をしたし、リコの話をしてくれないか?」

「え? わ、私のですか」

「うん、何で聖女と呼ばれているのとか興味あるし」

「わしもあるな。テツヤの同郷の女がこの世界で何をしておったのか」

「アタシも聞いてみたいにゃ」

「え、えー。聞くのは好きだけど、話すのは得意じゃないんですよね……。だから分かりづらくなるかもしれませんよ?」

「それでも問題ないよ」


 俺がそういうと、リコはしばらく考えて、


「分かりました。お話ししましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る