第53話 正体

 北門にたどり着くと、大勢の人々が通りの脇にたむろしていた。

 道に人々が出ないよう、ロープが張ってある。その他、兵士たちが険しい目で住民たちを監視していた。


「凄い人気じゃな」

「人がいっぱいだにゃ~」

「本当にテツヤの知り合いで間違いないのかの?」

「うーん、どうだろう。やっぱ違うかもな」


 俺とあの時の女子高生の少女『リコ・サトミ』は、同時期に異世界に転移している。


 この世界に来てから、何日経ったのか正確には覚えていないけど、たぶん50日くらいだと思う。

 その短期間で、ここまでの人気者になれるものだろうか?

 よっぽど大きなことをしたら可能かもしれないがな。


 まあ、どの道、見れば分かる事か。

 一緒にいた時間は非常に少ないが、それでも彼女の顔は鮮明に覚えていた。

 人は多いが、うまく前の方に行けたので、見ることは可能である。


「お、来られたぞ!」

「おお聖女様だ!」


 門の入り口近く辺りが騒々しくなる。

 どうやら聖女リコが来たようだ。


 この位置からでは見ることは不可能なため、近くを通るのを待つ。


 聖女が目の前を通ると、住民が熱烈な歓声を上げるため、今どのあたりを聖女が通っているのかが分かる。


 歓声がだいぶ近づいてきたので、もうすぐ目の前まで来るだろう。


 絶対に見逃すまいと、目を見開いて通りをじっと見る。


 来た!


 微笑みながら人々に手を振っている、複数の護衛兵に囲まれた女性。あれが聖女リコだろうが……。


 間違いない。あの時の女子高生だ。


 顔つきは少し変わったし、身に着けている服も制服から白いローブに変わっているが、間違いなくあの時俺と一緒に異世界に転移してきた子だった。


 前の方にいたのだが、この人の多さでは俺に気付かない。


 声を出してアピールしようかと少し考えたが、流石にそれは空気の読めない行動のような気がしたのでやめた。


「どうじゃった?」

「間違いなく、俺と同郷の子だった」

「本当かにゃ!」


 リコが通り過ぎてから、周囲の人が徐々に減って静かになっていく。


「それで本物じゃと分かってどうするのじゃ?」

「話さなければならないことがある」


 あの様子では、たぶんまだ深淵王に取り込まれているということはないだろう。ならばあの時、奴から得た情報は一刻も早く全て彼女に話さないといけない。

 刻印の解き方を調べるより先に、優先すべき事柄である。


「しかし会えるのかの。物凄い人気じゃったからな」

「そうだ……な……」


 会いたいという人は、非常に多いだろう。

 周りにも護衛の兵士がいたし、厳重に彼女は守られている可能性が高い。

 近づくことすら困難かもしれん。


「とにかく会えるかどうか聞いてみた方がいいな」


 この道で、紐を張っている兵士は、聖女の部下か何かだろうから、その辺詳しいだろうから、聞いてみよう。


「聞きたいことがあるんだが」


 通り過ぎた後も、見張りの任務を続けている兵士に質問をしてみた。


「何だ」

「聖女リコに直接会ってみたいんだが、それは可能なのか?」

「不可能だ」

「何故?」

「不届き者が聖女様に会うなど言語道断だから、信用のおけるもの以外は会えぬようになっているのだ」

「話さなければいけないことがある」

「それならば、私に話してもいいぞ。お前の話を聖女様の住む家の周りを護衛する方に伝え、その方がさらに聖女様の身の回りを世話をする方に伝えて、その方が聖女様にお前の話を伝えるだろう」


 何だその伝言ゲームは。

 直接伝えないと駄目なんだよな。

 人を介してでは訳の分からない話と思われて、相手にされないだろう。


 じゃあどうする?

 家を調べて忍び込むとか? それじゃあ犯罪者だしな。相手が俺の顔を記憶していなかった場合、捕まる可能性もある。

 とはいえ絶対に伝えておかないとならない事柄だしなぁ。


「道の真ん中で考えるのもあれじゃし、宿に戻ってから考えればどうじゃ?」

「それもそうだな」


 メクに促されて俺たちは宿に戻った。


 帰って考えたが結局、その日のうちに良い案が浮かんでくることはなかった。

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