第49話 戦後
「勇者は討ち取った! この剣を見ろ!」
最初はザワザワとしていた相手方だったが。剣を見たとたん顔を青ざめさせる。
剣は戦士の命。それを取られる時は死んだとき以外ないと、勇者の部下の兵たちは思っていたのか、俺が剣を掲げたのを見た瞬間、一目散に逃げ出した。
味方からは大歓声が上がる。
「やりましたね! テツヤ殿!」
「喜ぶのは後だ! レーニャを治してくれ!」
「あら! 獣人族がこうなるのはかなり弱っている証ですね。ヒーラーを呼んできてください!」
レーニャはその後、ヒーラーの手によって回復され、一命を取り留めた。
こうして勇者タケイとの戦いは終結した。
〇
戦いが終わったあと、俺たちは王都に一度帰った。
勇者を倒したという報告は既に王都まで行っていたようで、俺たちは町に帰った瞬間物凄く歓迎された。
その後パーティーやらなんやらが行われて、もてはやされた俺達だったが、素直に喜ぶような気持ちになれなかった。
空気を読んで最初はパーティーに参加したが、あとで1人になりたいと言って抜け出してきて、用意してくれた自室で休んでいた。
俺は右手の甲を見る。
相変らず、そこには刻印が刻まれていた。
深淵王は今も俺の体を狙っている。俺を不幸のどん底に叩き落として、再び力を借りに来るのを今か今かと待っている。
こんな状態で喜べるわけなどない。
不安で仕方がなかった。
「悩んでおるようじゃの」
メクが部屋の中に入ってきた。
「……まあな」
メクにはあの後、刻印について、深淵王から言われたことをすべて話した。
「これから真面目な話をするから、元の姿に戻してくれんかの」
「分かった」
俺は解放を使ってメクを元の姿に戻した。
光が発生し、エルフ姿のメクが姿を現す。
「お主が悩むのも、無理ないか。その刻印に目をつけられただけで、不運な気が入ってくるなどとな」
「奴の力は借りたくない。でもその時がくれば借りざるを得ない」
「大丈夫じゃその時なんて来ぬよ。わしが絶対に来させぬ」
メクは俺の目を見ながらそう言った。
綺麗なメクの目に見つめられて、俺の心臓の鼓動がドキッと跳ね上がった。
「まあ、呪いのある身で言ってもあまり説得力はないと思うがの」
「いや、そんなことないさ。メクがいてくれて心強いよ」
「わしの呪いも、お主の刻印も、早くなんとかせぬとな」
「ああ……」
「テツヤよわしはお主に感謝しておる。この国を救ってくれて、この体を一時的にでも元に戻れるようにしてくれて。お主が元に戻るためにならなんでもすると、今ここで誓おう」
メクがそう俺の目を真剣な表情で見てそう言ってきた。
「にゃー! アタシも誓うにゃ!」
後ろからレーニャの声が聞こえてきたと思ったら、レーニャが俺に背中から抱きついてきた。
「2人だけで何か話すなんて水臭いにゃ。アタシも仲間にゃ」
「ごめんごめん」
「アタシは弱くて今はあんまり力になれないけど、でもいつか絶対、ばりばりに強くなって、テツヤの力になるって誓うにゃ!」
レーニャは俺に抱きつきながらそう言ってきた。胸が背中に当たってさすがにドキドキしてしまう。それをメクがひややかな目で見ている。
「わしの胸も触りたいか?」
「いやいいからいいから」
俺の落ち込んだ気分など何処へやら、その後、レーニャメクたちと共に、再びパーティーに参加し、騒がしい夜を過ごした。
異世界は理不尽だ。いきなり谷に落とされるし、わけのわからん刻印を刻まれるし、何度も死にそうになるし、なんでこんな所に呼んだんだと文句を言いたくなる。
それでも俺は大切な仲間のため、他ならぬ自分のため、精一杯戦おうと決意した。
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