第48話 決着

 俺が頷いた瞬間、意識が元の体に戻る。そして、俺の体が真っ黒な闇に包まれた。


「あ? なんだぁ?」


 タケイの困惑する声が聞こえる。


「成功。完璧だ」


 その声は俺の口から出たようだが、俺の意志で出した声ではなかった。


 手も足も首も口も、ありとあらゆる所が自分の意志で動かせなくなってしまっている。


 体、全体の自由を全て、深淵王に乗っ取られてしまったようだ。

 それでも意識はあり、外のようすを見ることもできる。


「なんだお前、いきなり真っ黒になりやがって」


 タケイがそう言ってきた。今の俺は真っ黒なのか? 

 刻印が体全体に回って、黒くなったのか。


「さて約束を果たすとするか」


 俺の口で深淵王がそう声を発した。

 そして、俺の体を動かす深淵王が動かしている俺の体の速度は恐ろしく速い。

 タケイはその速度にまったく反応し切れていない。そして、速度を落とさずタケイの腹の辺りに、思いっきり肘打ちを喰らわせた。


「ガハッ!」


 肘打ちの威力は凄まじく、当たった瞬間にタケイの体は物凄い勢いで後ろに吹っ飛んでいった。

 100M以上吹き飛び、目では豆粒くらいの大きさになる。


 その距離を深淵王は一瞬で詰める。

 驚き戸惑うタケイの腹を踏みつける。


 強烈な踏み付けを喰らい、タケイの腹が叩き潰される。

 タケイの口から大量の血と一緒に、内臓が飛び出てきた。


「ガハッ……や……た……け……て」


 もはやタケイは、まともに言葉を発することすらできないようだ。

 目に涙を浮かべ、血と内臓を口から吹き出し、体を小刻みに震わせる。

 必死で俺の体を操っている深淵王から逃げようと、地面を這ってでも逃げようとする。


 しかし、深淵王は容赦などしなかった。

 今度は頭に足を踏みおろした。


 グシャ! と音がしてタケイの頭は踏み潰された。まるで割れたスイカのように血が地面に広がり、脳みそや頭蓋骨の欠片が四散する。


 勇者タケイはあっけなく死亡した。


「じゃ、吸収するか」


 深淵王(アビス・キング)は俺の口を使ってそう言って、タケイを吸収した。


 HP1422上昇、MP1232上昇、攻撃力781上昇、防御力701上昇、速さ771上昇、スキルポイント93獲得

 スキル【伝説化】獲得。

 スキル【再生】獲得。


 能力値上昇とスキル上昇の声は俺にも聞こえた。何かとんでもないくらい上がっている。

 俺に力を貸すということは、すべての能力が加算されるということなのだろう。


「さて、後は好きにやらせてもらうぜ。ま、返事は聞けないがな」


 そう言って、深淵王は俺の体を動かしてどこかに去ろうとする。

 俺はこのままこいつの動かす体を見続けないといけないのだろうか。

 それは辛いな。でも、とりあえずタケイは殺して危機は去った。

 メクとレーニャは助けられた。

 それだけでいいか。


「テツヤ!」


 メクの声が聞こえてきた。


「お前は……あーメクか。残念だったな。テツヤはもうこの世にはいない。俺は深淵王だ」

「おぬしがなんなのかはどうでもいい。テツヤに体を返すのじゃ」

「それは無理だな」


 メクは深淵王の返答を聞いた瞬間、深淵王に向かって走り出す。


 何をする気だメク! 


 こいつはもはや誰の手にも負えないほど強い! ぬいぐるみのメクがはむかっていい相手ではない。


「あー、お前は殺さないっていったんだよ。別にいいか。お前の攻撃を喰らうことはないだろうし」


 深淵王はメクを完全に無視して背を向けた。良かった。こいつ一応約束を守る気はあるみたいだ。


 そうして歩きだろうとしたとき、メクが何かを深淵王に支配された俺の体に当てた。

 宝石のようなものだった。


「あ?」

「消え去れ!」

「……これは!」


 俺の体が光に包まれる。


「っち、めんどうなことをしてくれたな。こんなものどこで手に入れた?」

「言う必要はない」

「そうか。残念ながら一つ言っておくぞ。この程度で俺は消え去らない。同化は解けてしまうが、刻印は消えない。こいつにある負の運命もそのままだ。そのうち、不幸な目に遭い、結局俺の力を頼ることになるだろう。結末は絶対に変えられないんだよ。先延ばしにしただけに過ぎない」

「うるさい。貴様が何か分からぬが、もう二度とテツヤが貴様を頼るような状況にはさせない。そのうちその刻印を消す方法も見つける」

「ハハハハハハハ、消す方法か、見つかればいいなぁ。ハハハハハハハハ!」


 深淵王は俺の体で大笑いをする。そして、しばらく経つと、


「……あ! 動ける!」


 俺は動けるようになった。


「テツヤ!」


 メクが抱きついてきた。ぬいぐるみなので、もふもふした感じになるだけだが、それでも嬉しかった。


「何を使ったんだ?」

「妹からもろうたものじゃ。一回使ったらもう使えないみたいじゃがの」


 先ほど宝石が付いていた場所にもうなにも付いていなかった。


「とりあえず、勇者は倒したか。あ、レーニャ!」


 俺はレーニャの元に駆け寄る。

 猫の姿になってしまっており、かなり危ない状態だが息はあるみたいだ。


「急いで帰って治してもらわないと」

「そうじゃな。テツヤは大丈夫か?」

「うん。完全に回復したみたいだ」

「そうか。わしは腹に穴が開いたくらいじゃな。これは不思議なことに時間が経過すれば、勝手に直るようになっておるのじゃ」

「そうなんだ。とにかく急いで帰ろう」

「待つのじゃ、勇者の持っていた剣を持って帰るのじゃ、いい剣じゃし、それに城の前では戦いが起こっておるから、相手の兵の士気をそぐため、勇者を倒したということを証明せねばならん。死体は吸収してしまったから、剣を持っていくのが一番じゃ」

「そうか」


 俺は剣を拾った。確かにいい剣みたいだし、今度からこれ使うか。人の盗み取ったみたいで感じ悪いけどな。


 その後、俺たちは急いで城に帰った。


 城では戦いがまだやっており、どちらが優勢というわけでなく互角だった。

 俺は近くまで行き、勇者の剣を掲げて、


「勇者は討ち取った! この剣を見ろ!」


 と叫んだ。

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