第47話 深淵王
俺は再びそこに来てしまっていた。
俺の目の前に大きな目玉がいた。目玉の下には以前別れ際に出た口がまだあった。
「またここに来るとはなぁ。弱いなぁお前も」
「……力を……貸してくれ」
俺は開口一番そう言った。
「そう言うと思っていたよ」
「貸してくれるのか?」
「ああ、だがお前にすべてを話さなければ、これ以上力を貸すことができないんだ。結構面倒な存在なんだよな。俺は」
「話とはなんだ?」
「その刻印と俺自身のことそれから俺がやろうとしていること、全てについてだよ。それを聞かせたうえで、お前が首を縦に振らない限り、俺はお前に力を貸すことはできない」
「……」
言っている意味がよく分からない。ただ俺は質問したりはせず、大人しく目玉の言うことを聞くことにした。
「まず俺がなんなのか言おうか。俺は
この目玉は深淵王というらしい。そのままな名前と言えばそのままな名前だ。
「俺は深淵から出ることのできない存在だ。毎日退屈していたんだが、ある日、深淵にな。人間が入り込んできたんだ。偶然だ。そいつに俺は刻印を刻んだ。お前についている刻印と一緒だ。その刻印を刻んだ瞬間、その人間は不思議と危機に瀕することが多くなった。そして、死にそうになるたびにここにきて俺は力を貸した。するとどうだ。そいつと俺の意識が同一化していき、やがてそいつの意識は俺の意識と変わらなくなっていった」
な、何を言っているんだ。同一化? それに刻印があるから、危機に瀕することが多くなった?
つまりこの刻印があると、俺はこのようにこいつの力を借りたくなるような事態に遭遇することが、多くなるということなのか?
「その人間は今は深淵の外に居るが、俺はその人間が見ているもの聞いていることを知ることが出来る。そしてその人間を意のままに操る事が出来る。既にその人間は自分の意志で体を動かす事は出来ない」
「ま、待てよ。お前の意識はこうして俺と話しているじゃないか」
「俺の意識はいくつも同時に色んな場所に存在出来る。まあ、これは人間には分かりにくい感覚だろうがな」
「……それでお前は何が言いたいんだ?」
「これ以上お前に力を貸すと、お前の体は俺が操ることになるだろう」
「……お前が力を貸していたのはそれが理由なのか?」
「そうだ。俺の目的は深淵の外の世界を支配することだ。まあ、それをやろうとすると黙っていない奴らがいるから、今はできない。手ごまが足りないんだ。お前を新たな手駒としたいんだよ」
こいつは良い存在でないと思っていたが、その通りだったようだ。
邪悪な存在だった。
「なぜ俺にペラペラ話した。黙って力を貸していれば良かっただろ?」
「きちんと説明して納得させたうえで、やらないと失敗するケースがあってね。少しだけ元の人間の意識が残ってしまって、想定外の行動を取ることがあるんだ。例えばあの黒騎士なんかはそうだな。あいつは失敗作なんだ。お前に刻印を刻むくらいはさせられるが、ほかのことをさせるにはリスキーすぎる」
「勇者たちはなんなんだ。あいつらはお前の手駒なのか?」
「違う違う。俺の手駒を使ってお前を追い詰めるのは、ちょっと事情があって難しくてね。まあ、その刻印があれば自動的に追い詰められるようになっているんだよ。だから俺が何かする必要はない」
やっぱりそうなのか。この刻印があるだけで俺に危機がやってくるようになっているのか。
「………………最後に一つ聞く。何故俺なんだ」
「それはお前に【死体吸収】があるからだな。世の中には他人には絶対に持てない、固有の強力なスキルを持っている奴らがいる。俺はそいつらを異端者(イレギュラー)って呼んでいる。俺の刻印はその異端者でないと刻むことができないんだ。異端者の持つスキルは、すべて人の身には過ぎたスキルだから、【死体吸収】と同じくなんらかの制限がかかっている。この制限を俺の力を使って解くことで、俺は異端者に力を与えているんだ。あと、お前と同時期に女の異端者が発生したろ? リコ・サトミって名前だったか? あれにも刻印を刻んでいるんだ。まだお前のように悲惨な目には遭っていないが、これも時間の問題だろう。ま、もうお前には関係のないことだ。聞かせる必要はなかったな」
これから、俺の体を自分の物にできると確信しているからか、深淵王はそう言った。
「で? どうする? 俺の力を借りるか?」
「……」
「答えは決まっているだろ? だってここに来たんだから。ここにはな、何があっても力を借りたいと思っている奴しかこられないんだよ。それこそ自分を犠牲にしてでも叶えたい何かがある奴じゃないとこられないんだ」
「お前に俺の体をとられても、それでお前が勇者を殺すとは限らない」
「殺すさ。あいつは強いからな。殺して吸収しない理由がない」
「メクとレーニャはどうする」
「体をくれたお前に免じて助けてやろう。ま、信じるか信じないかはお前の自由だ」
「……」
「どうする?」
俺は一切間をおかずに、
「力を貸してくれ」
そう頼んだ。
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