第46話 vs勇者タケイ2

「【伝説化レジェンド・モード】」


 タケイがそう言ってきた。なんだそれ、スキルか?


 そのスキルを使った瞬間、タケイの動きが変わった。


 元々速かったが、それがさらに速くなった。タケイは超高速で俺に斬りかかってくる。なんとか反応し、受け止めるが、物凄く力が強い。これはずっと受け止めきれるか!?


「勇者にはなぁ。それぞれ奥の手のスキルがあるんだよ。俺の【伝説化】は、身体能力をかなり上げるだけで、ほかの勇者と比べると全然たいしたことねぇーけど、てめーを殺すには十分なんだよ」


 物凄い力だ。剣ごと押し切られそうになる。


 そこで、メクが魔法を使う。光の槍の魔法だ。タケイはその魔法を今度は避けた。

 避けているときレーニャが切り裂きで攻撃を加えるが、その攻撃は軽く受け止められてしまう。受け止められたあと、攻撃を加えられそうになるのを、メクはなんとか回避した。


 クソッ。強化されるだと? かなりやばいだろそれは。こっちはあと1分ほどで倒しきる。もしくは大幅に戦闘能力を落とすほど、弱らせなければならないんだぞ? できるのか? 可能なのか?


「面倒だなぁ3対1てのは。誰か削らないとな。女は殺したくなかったが面倒だし、もう殺すかー。最初はあの虎みたいな奴から殺そう」


 標的をレーニャに変えたようだ。

 タケイが動き出す。俺は動き出す一瞬先にレーニャを防衛するために動いていた。

 しかし、


「ばーか、フェイントだよ」


 タケイはメクの方に向かっていた。

 完全に騙されてしまった俺は、反応するのが少し遅れる。

 その少しが命取りだった。メクの胸元めがけて、タケイは突きを放つ。

 あまりの速度にメクは反応できていない。


「メク!」


 俺は叫んだ。しかし、無駄だった。

 メクの心臓にタケイの剣が突き刺る……その一瞬前、メクの姿がぬいぐるみに戻った。

 ぬいぐるみ状態のメクにタケイの剣が突き刺さる。


 も、元に戻ったぞ。あれ? あの状態でさされたらどうなるんだったけ?


「あ……危ない危ない。死ぬところじゃった」


 メクは生きていたようだ。


「あ? なんだこりゃ? またぬいぐるみになったし、死んでいないし。っち」


 その後、タケイはぬいぐるみとなったメクをぽとりと落とした。


 死んだと思ったのが無事だったのはいい。でも、この状況は……かなりまずい。


 メクがもう戦えなくなってしまった。


 この状態で、タケイに勝てるのか?


 ――勝つしかない。


「まあでもこの状態じゃ戦えねーか。ははは、勝ったな。じゃあ次はあの男を殺すか。俺がムカついているのはあいつだしな。散々苦しめたあとぶっ殺してやろう」


 タケイは俺に狙いを変えたようだ。そして、剣を俺に向かって振るってくる。

 俺は受け止める。一撃一撃が重い。そのうえ、速い。


 受け止めるだけで精一杯だ。


 そして遂に受け止めきれずに剣が折れる。タケイはなおも斬るのをやめず、俺は肩の辺りを斬り裂かれた。肩から鮮血が噴き上がる。肩に強烈な痛みが走り、俺は思わず肩を押さえてうずくまる。


「テツヤ!」


 そのようすを見ていたレーニャが救援に来た。

 背後からタケイを攻撃する。


 タケイはレーニャを蹴る。


「にゃっ!」


 蹴りはレーニャの頭に当たる。かなりのダメージが入ったみたいで、レーニャは猫にまで戻ってしまう。


 鑑定をするが死んではいないようだったが、HPは残り僅かになっていた。


「虎から猫になりやがったなこいつは」


 少しタケイの気がそれている。俺はその隙にタケイに攻撃をする。まずは【闇爆】を使う。命中その後、【隕石】を使うが、使う前にタケイに腹を蹴られた。


「がふっ!」


 あまりの痛みに俺は地面にうずくまる。


「テツヤ!」


 メクの叫び声が聞こえる。


「さてこれから苦しんでもらうぞ~。どうしようかな。そうだ」


 タケイはそう言って、倒れているレーニャに近づく。

 そしてレーニャの首根っこを掴み、


「お前の目の前でまずこいつを殺す。それも結構残酷にな」

「なんだと…!」

「ハハハ、その目、いい目じゃん。俺を馬鹿にしたてめーは苦しんで苦しんでしななくちゃならん。まずは仲間が死ぬところを悔しそうに見ておけよ」

「ふざけん……」


 立ち上がろうとしたら、頭を踏みつけられた。


「動いたらだめだろ」

「ぐ……」

「お前みたいなクズがこの俺を怒らせたのが悪かったんだ。苦しんで苦しんで死ね」


 タケイはそう言って、俺の頭をグリグリと地面に押し付ける。

 土の味と血の味が口に広がる。そして、強烈な屈辱感が俺の胸に込みあがってきた。


 クソ! クソ!


 俺は力を入れて足をどかそうとするが、強い力で踏みつけられていて、動くことができない。


「踏んでいる状態じゃ、こいつが死ぬとこ見せられないな。よし」


 タケイはレーニャを俺の目の前に置いた。


「今からこいつを踏みつけて殺す」


 そして、足を上げながらそう宣言した。


「や、やめろ!」

「やめるのじゃ!」


 俺とメクが叫ぶ。


「やめねーよ。じゃあ死ぬ所を間近で見ておけよ」


 こんな……こんなこと!

 でも動けない。前と同じだ。リーザース戦でやられかけたときと。

 俺は無力を噛み締めながら動くことができなくなる。

 でも、あの時は……そうだ。あの時は……


「俺に助けられたんだったよな?」


 以前聞いた声が聞こえてきた。

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